作品番号 2019-01
御題 詠光 応制詩
北辰荒海導迷船 北辰 荒海に迷船を導き
雪机寒儒苦学全 雪机の寒儒 苦学全し
誰使陽光生萬物 誰か陽光をして万物を生じせしめ
人成發電賜澄天 人は発電を成して澄天を賜ふ
「北辰」: 北極星
「雪机」: あえて「蛍雪」を用いませんでした
「誰」は天の主宰者 天帝
「賜澄天」: 化石燃料を回避したことにより「澄天」をえる
作品番号 2019-02
除夕
丙子投詩廿二年 丙子 詩を投じ 廿二年
人生杖國自相鞭 人生 杖國 自から相鞭うつ
未鶏肋句吟情促 未だ鶏肋の句 吟情促す
百八鐘聲殘臘天 百八の鐘聲 残臘の天
「丙子」: 平成八年。
「人生」: 人の一生。
「杖國」: 九十才。
「鶏肋句」: 鶏の肋骨のように役にたたないが、棄てがたい詩句。
「百八鐘聲」: 除夜の鐘音。
「残臘天」: 十二月末のこと、大晦日。
作品番号 2019-03
歳晩書懐
平成最後暮將殘 平成 最後の暮 将に残せんとす
奈此人生坐夜闌 奈せん此の人生 夜闌に坐す
聖嗣賀筵春五月 聖嗣の賀筵 春五月
難忘昭和思無端 忘れ難き 昭和 思ひ端無し
「平成最後暮」: 昭和30年大晦日。
「坐夜闌」: 夜更けまで起きている。
「聖嗣」: 天子の世継ぎ。
「賀筵」: 賀宴。
難忘昭和
吾昭和の初め生を受け、物心ついたころには、戦争に明け暮れ、
「僕は軍人大好きよ 今に大きくなったなら勲章下げて剣釣って お馬に乗ってハイドウドウ・・・」
支那事変に次いで太平洋戦争に。先帝「朕茲に米国英国に戦いを宣す」。
後1年で海兵受験を志すも、戦況我に利非ず。中3で甲飛に合格、入隊丸2か年間、猛訓練の末、実施部隊に配属、交戦に従事せり。
嗚呼 友は南溟に散り・・・ 吾齢は杖國に一を加える新正を迎える。
諸々の思いが去来する歳末である。
作品番号 2019-04
歳晩書懷
孤星寒月去來風 孤星 寒月 去来の風
歳暮情懷今昔同 歳暮の情懐 今昔 同じ
七十二年惟一夢 七十二年 惟 一夢
青雲路遠未成功 青雲の路 遠く未だ功 成らず
作品番号 2019-05
舜韶新・年暮祭詩更賦新
年暮天寒, 年暮 天寒く,
催取暖爐邊, 炉辺に暖を取り,
獨傾温酒。 独り温かき酒を傾くるを催(うなが)す。
祭詩落膽, 詩を祭りて落胆す,
几案無傑作, 几案(つくえ)に傑作無く,
吟魂消瘦。 吟魂 消瘦す。
重振精神試, 重振精神(気を取り直して)試む,
索雅韻、迎新除舊。 雅韻を索(さが)し、新を迎へ旧を除くを。
半宵聞鐘語, 半宵 鐘語を聞き,
偶得妙思靈秀。 たまたま妙思の霊秀なるを得。
○ ○
下筆雲箋, 筆を下す雲箋,
宛若氷原, 宛も氷原の如く,
張翼清晨, 翼を張り清晨に,
且求鸞偶。 且(まさ)に鸞偶(好き配偶)を求めんとす。
蜃樓高聳, 蜃樓(蜃気楼)高く聳え,
看到飛仙舞, 看るに到る 飛仙舞ひ,
飄然懷誘。 飄然と懐誘(招き誘)ふを。
欣啜霞漿美, 霞漿の美(うま)きを欣び啜り,
起興餘、高吟張口。 興を起して余(のち)、高吟して口を張る。
花容含媚笑, 花容 媚笑を含み,
彈琴久陪迂叟。 琴を弾き久しく迂叟に陪す。
<解説>
私は2002年以来毎年2000首の詩詞を詠むことを目標にしています。
今年もその目標を達成。
2100首に届かなかったのは2003年以来ですが、
作り応えのある律詩や詞曲を例年以上に詠むことができ満足しています。
よい詩を詠むにはどうしたらよいかと悩み苦しむよりは
まず作ることを楽しもう
どうすれば楽に作れるかを工夫しよう
というのが私のポリシーです。
才浅き者の猪突猛進と盲信、お笑いください。
なお、「舜韶新」の詞譜(『欽定詞譜』)は次のとおりです。
舜韶新 詞譜・雙調101字,前段十句四仄韻,後段十一句四仄韻 郭子正
○●○○,○●●○○(一四),○○○仄。●○●●,○●○○●,○○○仄。○●○○●,●●●、○○○仄。●○○○●,●○●○○仄。
●●○○,○●○○,○●○○,●○○仄。●○○●,●●○○●,○○○仄。○●○○●,●●○、○○○仄。○○○●●,○○●○○仄。
○:平声。●:仄声。仄:仄声の押韻。
(一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。
〇と●だけの詞譜。
つまりは『欽定詞譜』編纂の際に郭子正以外に作例が見付からなかったというもの。
とすれば、小生の作、千年の歳月を超えて郭子正の次に私が詠んだものかも知れません。
作品番号 2019-06
五律・二〇一八戊戌年祭詩
歳暮傾杯好, 歳暮 杯を傾くるが好くも,
祭詩酸涙流。 詩を祭れば酸涙流る。
高吟醉翁傲, 高吟して醉翁 傲るも,
清醒菲才愁。 清く醒めれば菲才 愁ふ。
奮振磨朱墨, 奮振して朱墨を磨き,
推敲捜緑洲。 推敲して緑洲(オアシス)を捜す。
心泉洗星眼, 心泉の洗ひたる星眼,
輝耀喜春遊。 輝き耀いて春遊を喜ぶ。
<解説>
[語釋〕
酸涙:悲傷せる涙。心泉:心中の思緒。星眼:明麗なる眼眸。
作品番号 2019-07
新年
獨在他郷十幾年、 他郷に十数年一人暮らし、
全家元旦樂團圓、 今年は一家の団欒がうれしいです、
鐘聲甚近人驚訝、 鐘の音がすごい近いなと思ったら
茅屋原來寺院前。 我が家の向いはお寺なのを思い出しました。
作品番号 2019-08
年頭所感
齢遥超傘寿 齢 遥かに傘寿を超ゆるも
無恙謝餘生 恙なく 余生に謝す
喜讀朋知便 喜び読む 朋知の便り
追懷酒醴傾 追懐し 酒醴 傾く
作品番号 2019-09
新年偶成
入門五年詩興推 入門 五年 詩興堆し
媼翁趣味一花開 媼翁の趣味 一花開かん
朗吟清唱心身爽 朗吟 清唱すれば 心身爽やか
日日研讃夢又回 日々の研鑽 夢又回る
作品番号 2019-10
元旦
歳寒松柏鵠Z堤 歳寒くして 松柏 堤に緑濃く
天曜川流澄澹兮 天曜(かがや)きて 川流 澄澹なり
愛犬與行過午岸 愛犬 与に行く 過午の岸
三三五五鴨休畦 三三五五 鴨 畦に休(いこ)ふ
作品番号 2019-11
元旦
雲關沍i後庭連 雲間 澄景 後庭にも連なり
粧雪茶梅深色鮮 雪に粧ふ茶梅 深色鮮やか
正是一篇擇筆墨 正に是れ一篇 筆墨を択し
不殊常日北窗前 常日に殊ならず 北窗の前
雲間からの朝の光が、普段は日の当たらない裏庭にも差し込んで、
雪化粧をした、山茶花の深い色が鮮やかである。
この様子は正に一つの詩。筆と墨を選び抜いて、
元日なのにいそいそと書斎に籠る。
作品番号 2019-12
早春雅集
鶏鳴報慶歳華辰 鶏鳴慶を報ず 歳華辰
萬戸風旗天下春 萬戸風旗 天下の春
壽福嘉筵忘白髪 壽福の嘉筵 白髪を忘れ
詩朋談笑醉芳醇 詩朋談笑し 芳醇に酔ふ
作品番号 2019-13
新年所懐
朝暉燦燦草蘆邊 朝暉 燦燦たる草蘆の邊
幼児聽聲几案前 幼児の聲を聴く几案の前
至老漸知貧士樂 老いに至り 漸く知る 貧士の楽
閑専筆硯向新年 閑かに筆硯を専らにして 新年に向かはん
作品番号 2019-14
新年
正月隣家見發梅 正月の隣家 発梅を見る、
冬晴借宅錯春來 冬晴の借宅 春来るを錯ふ。
花香淑氣南窗外 花香 淑気 南窓の外、
請問爲誰處處開 問ふを請ふ 誰が為に処処開く。
作品番号 2018-15
立春
人生到處有悲哀 人生 到処悲哀有り、
故待街坊燕子回 故らに待つ 街坊 燕子の回るを。
痺足励禪春未近 痺れる足で禅に励むも 春未だ近からず、
病身新止酒肴杯 病身 新たに止められる 酒肴の杯。
作品番号 2019-16
己亥歳朝
日出雲開四海平 日出でて 雲開いて 四海平らかなり
賀詩欲裁快然成 賀詩 裁せんと欲すれば 快然として成る
尋常一樣新年事 尋常一様の新年の事なれど
何意今春有別情 何の意ぞ 今春 別情有るは
日の出とともに雲も消え 世間しずかに事もなし
春を慶ぶ詩を詠めば うまい具合に出来上がる
いつもどおりの変わらない 年のはじめの事ですが
どうしたわけかこの朝は 別れを惜しむ気分です
作品番号 2019-17
答人
四十二男子 四十二の男子
誰言多厄災 誰か言ふ 厄災多し と
平生足憂事 平生 憂事足る
可笑口須開 笑ふべし 口須らく開くべし
数え年 四十二
知るものか 厄年なんて
ふだんから 悩みは足りてる
口あけて 笑ってやるべし
作品番号 2019-18
己亥新春述懐
耽耽虎視覇圖爭 耽々虎視 覇図の争い、
驕慢一流將曷行 驕慢の一流 将に曷をか行わんとする。
猛進豬狶無轉倒 猛進豬狶 転倒すること無かれ、
平成終尾冀康平 平成の終尾 冀わくは康平ならんことを。
作品番号 2019-19
己亥新年書感
四海春装一草堂 四海春装 一草堂
歳朝景物亦尋常 歳朝の景物 亦尋常
老來何歎氣康健 老来何ぞ歎かん 気は康健
子女共斟椒酒香 子女と共に斟む椒酒香し
作品番号 2019-20
己亥新年書感(二)
干支六度瞬時過 干支六度 瞬時に過ぐ
鹵莽半生蹉且跎 鹵莽の半生 蹉且つ跎たり
貧計共斟履端酒 貧計なれど共に斟む履端の酒
謝天謝内奈欣何 天に謝し内に謝して 欣び奈何せん
作品番号 2018-21
新年
晨鶏爽氣曙光紅 晨鶏 爽気 曙光紅なり
四海昇平度惠風 四海 昇平 恵風度る
脱却竃Z閑日月 脱却 竃Z 閑なる日月
屠蘇快飲氣蓬蓬 屠蘇 快飲 気は蓬蓬
作品番号 2019-22
新正
歳朝無恙此迎新 歳朝 恙無く 此に新を迎ふ
瑞氣賦詩天地春 瑞気 詩を賦す 天地の春
加一九旬身尚健 九旬に一を加へ 身は尚健なり
劫餘昨昔憶故人 劫餘 昨昔 故人を憶ふ
「歳朝」: 元日。
「無恙」: 無事。
「瑞気」: 目出度い氣。
「餘一九旬」: 九十一才。
「劫餘」: 戦後。
「昨昔」: むかし。
「故人」: 旧友。
作品番号 2018-23
初春述懐
平成最後迎新年 平成 最後の 新年を迎へ
餘一九旬人是仙 九旬に一を餘す 人是仙なり
惨憺劫餘懷往事 惨憺たる 劫餘 往事を懐ふ
風波無用太平天 風波 無用 太平の天
「平成最後の新年」: 四月末改元、五月から元号が変わる。
「餘一九旬」: 九十一才。
「人是仙」: 世俗を離れた人。
「惨憺」:あれこれと心を痛める。
「劫餘」: 戦後。
「懐往事」: 戦時中や戦後の事を思う。
「風波」: 世の荒波。
「太平天」: 平和な天、平和な世界。
雅号・ペンネーム=深渓
作品番号 2018-24
述懐
健躯鶴髪愧凡才 健躯 鶴髪 憶凡才を愧ずも
九十一齡何足欸 九十 一齢 何ぞ欸に足らん
千里低徊輕薄子 千里の低徊 軽薄な子
人生行路思悠哉 人生 行路 思い悠なる哉
「鶴髪」: 白髪頭。
「千里低徊軽薄子」: 子は男なり。南北極を除き全世界と日本全国と島嶼部まで覊したり。
九十一才の老齢を欸く莫れ、吾期頤まで生きようぞ。
作品番号 2018-25
己亥賀正
野豬奔走入叢林
獵戸フ蒼牽犬尋
靈感流星天際去
須於月下及時擒
作品番号 2018-26
己亥新年書感
放馥庭梅度惠風 馥を放つ庭梅 恵風 度る
蓬蓬天地曙光紅 蓬蓬たる天地 曙光 紅なり
欲迎新代平成世 新代を迎へんと欲す平成の世
旭日神州瑞氣籠 旭日の神州 瑞気 籠む
作品番号 2018-27
新年書感
新正朝旭報春來 新正の朝旭 春の来たる報ず
馥郁盆梅次第開 馥郁たる盆梅 次第に開く
傾蓋佳朋詩酒會 傾蓋の佳朋 詩酒の会
芳筵美祿醉金杯 芳筵の美禄 金杯に酔ふ
作品番号 2018-28
平成己亥年 勅題「光」
旭日曈曈放瑞光 旭日 曈曈と瑞光を放ち
平成惜別拝年忙 平成 別れを惜しんで 拝年忙し
同僚相會論書處 同僚 相会うて 書を論ずる処
紙上龍蛇吐墨香 紙上の竜蛇 墨香を吐く
旭日が 曈曈と瑞光を放っている
元号の平成が別れを惜しんでいるかのようで 年初めの挨拶が多く忙しい
同僚が書き初め会で会って お互いの書を論じている
紙上に書いた字が 墨香を吐いているかのようだ
作品番号 2018-29
平成最后新年
果苺已赧温室瑰 果苺 已に赧き 温室の瑰
青郊十里麥畦開 青郊十里 麦畦開く
新陽祈請斟椒酒 新陽祈請して 椒酒を斟み
尚是平成追憶杯 尚ほ是れ 平成追憶の杯
作品番号 2018-30
己亥正月
久待新春格別杯 久しく待つ新春 格別の杯
始迎孫子喜心開 始めて孫子を迎へて 喜心開く
爲貽神矢賢還健 為に神矢を貽る 賢 還た 健
椒酒桃符邪鬼裁 椒酒桃符 邪鬼を裁つ