2018年の投稿詩 第181作は芙蓉漢詩会の 柳村 さん(富士市)からの作品です。
 

作品番号 2018-181

  旅愁        

旅舎開窗素月流   旅舎 窓を開ければ素月流る

牀前淡照夜悠悠   牀前 淡く照して 夜悠々

新寒一脈蟲聲細   新寒 一脈 虫声 細く

縹渺歸心切切愁   縹渺たる帰心 切々の愁ひ

          (下平声「十一尤」の押韻)

「素月」: 白い月の光

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    旅愁
  旅舎開窗素月流
  牀前淡照夜悠悠
  新寒一脈歸心切
  樹下蟲聲増客愁

 以下はその折の私の感想です。

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 趣のある詩になっていると思います。

 起句の「旅」と結句の「客」の重なり、「歸心切」「客愁」の関わりが気になります。
 二句に跨がらせないで、「新寒一脈蟲聲細 縹渺歸心切切愁」などでしょうか。
 



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第182作は芙蓉漢詩会の 柳村 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-182

  秋夜        

三更不寐夜漫漫   三更寐ねず 夜漫々

友逝周年憐老殘   友逝き 周年 老残を憐れむ

奈此心情孤枕濕   此の心情を奈(いかん)せん 孤枕湿る

家中寂寞雨聲寒   家中 寂寞 雨声寒し

          (上平声「十四寒」の押韻)

「夜漫漫」: 夜の長いさま
「周年」: 満一年

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    秋夜  
  三更不寐夜漫漫
  友去周年憐老殘
  奈此愁懷孤枕濕
  心中寂寞雨聲寒

 以下はその折の私の感想です。

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 承句の「去」は「逝」が良いか。
 「憐」「愁懐」「心」と重なるので、転句の「愁懷」は「衾裯」「客窗」などでどうでしょうか。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第183作は芙蓉漢詩会の 柳村 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-183

  晩秋所見        

古垣處處菊花披   古垣の処々 菊披く

霜圃凄凄橘柚垂   霜圃 凄々 橘柚垂る

請看芙峯初冠雪   請ふ看よ 芙峰の初冠雪

新寒一脈送秋時   新寒 一脈 秋を送る時

          (上平声「四支」の押韻)

「凄凄」: 寒々しい

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    晩秋所見  
  東籬處處菊花披
  霜野凄凄橘柚垂
  請看芙峯初冠雪
  新寒一脈送秋時

 以下はその折の私の感想です。

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 「霜野」は「東籬」の絡みで陶潜の「帰去来辞」から取れば「南野」、これでは直対なので「霜」と置いたのでしょう。
 「霜野」ではやや広すぎるので「霜圃」などとして、自分の敷地内の景色にしてはどうでしょうね。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第184作は芙蓉漢詩会の 柳村 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-184

  赤穗温泉         

來游赤穗日將斜   赤穂に来遊すれば日将に斜ならんとす

野外秘湯驅百邪   野外の秘湯 百邪を駆る

一浴陶然寛緩處   一浴 陶然 寛緩の処

泉傍放馥水仙花   泉傍 馥(かおり)を放つ 水仙花

          (下平声「六麻」の押韻)

「驅百邪」: 多くの邪気を追いやる


<解説>

 赤穂温泉の露天風呂の傍に水仙の花が咲いていました。 

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    赤穗温泉  
  來游赤穗日將斜
  野外秘湯驅百邪
  一浴陶然閑適處
  泉傍放馥水仙花

 以下はその折の私の感想です。

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 のんびりした雰囲気が漂って、気持ちの良くなる詩ですね。

転句の「閑適」はのんびりした暮らしをすることなので、旅行中の気持ちとしては合いません。
「寛緩」でどうでしょうね。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第185作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さん(静岡市)からの作品です。
 

作品番号 2018-185

  立春寒波        

嚴冬越度冷猶寒   厳冬 度を越して 冷猶寒たり

群雀覓陽簷亦欄   群雀 陽を覓(もと)め 簷また欄

春氣如何寓居凍   春気如何 寓居凍る

殊容富嶽戴銀冠   殊容の富岳 銀冠を戴く

          (上平声「十四寒」の押韻)



<解説>

 初冬から日ごと、様相を変える富士山、冠雪見える頃、我が家のベランダに十余の雀が群れてくる一時は和みの時間です。

 今冬は寒かったですね。     

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    立春寒波  
  嚴冬越度冷猶寒
  群雀向陽簷亦欄
  春氣如何寓居凍
  殊容富嶽戴銀冠

 以下はその折の私の感想です。

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 内容のよく伝わる、気持ちが素直に出ている詩ですね。

 承句の「向」を「覓(広くさがしもとめるの意味)」とした方が情景に合うでしょうね。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第186作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-186

  早春三保海岸        

紺碧駿洋波浪煌   紺碧の駿洋 波浪煌(きらめ)く

雪銀豆嶺淡濃粧   雪銀の豆嶺 淡濃の粧ひ

老軀壯健抗寒氣   老躯壮健にして 寒気に抗ふ

富嶽泛杯還一觴   富岳 杯に泛かべ 還一觴

          (下平声「七陽」の押韻)

「豆嶺」: 伊豆の山々

<解説>

 世界遺産になってから観光客も増え、雪の富士山がはっきりと見えると、地元としても誇らしい。

<感想>

 前対格で工夫をされていると思います。

 前半で駿河湾と伊豆の山、最後に富士山と来ますが、前半に海岸と富士をセットにすることも、考えられますが、「富士を盃にうかべて一杯」という雄大な句は残したいですね。

 転句の「壮健」が作者の力強さを出していますので、富士山と勝負!という気迫が感じられます。
 年齢が上がるともう少し枯れた表現になるかもしれませんが、今はまだまだ負けんぞという健康な作者の姿は何よりです。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第187作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-187

  仲春寓居想友        

峻烈霊峰不断姿   峻烈の霊峰 不断の姿

河津櫻散染牆籬   河津桜散りて 牆籬を染める

先年相看君安在   先年 相看たり君安くにか在りや

垂老歳餘春恨時   垂老の歳余 春恨の時

          (上平声「四支」の押韻)



<解説>

 植えてから四年を迎えた河津桜が思いのほか高くなりびっくり、昨年は親しい方を二人亡くした。

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    仲春寓居想友  
  峻烈霊峰不断姿
  河津櫻散染牆籬
  此觀共看君安在
  過客歳餘春恨時

 以下はその折の私の感想です。

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 転句は「此觀」が余分ですので、「先年相看」とし、「先年相看し君安くにか在る」と読み下しましょう。

 結句は、「過客」で旅人としてますが、「牆籬」は庭の桜だったのではないでしょうか。
 もし離れた場所に見物に行ったとしても、「君安在」と言う人が「過客」ではおかしく、ここは「垂老」「衰老」などが良いでしょう。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第188作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-188

  仲春寓居迎友        

春煙墻角馥紅梅   春煙の墻角 紅梅馥る

獨坐茅簷方友來   独り茅簷に坐せば 方に友来たる

笑談獻酬歡再會   笑談 献酬 再会を歓ぶ

越年胡蝶舞遊回   越年の胡蝶 舞ひ遊びて回(めぐ)る

          (上平声「十灰」の押韻)



<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    仲春寓居迎友  
  清静幽香紅白梅
  越年胡蝶草堂隈
  朋儔偶訪機宜好
  談笑添春約再來

 以下はその折の私の感想です。

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 起句は「清静」は環境を表す言葉で、香りに使うなら「清浄」ではないでしょうか。

 転句の「機宜好」は何を受けての言葉なのか、起句は良いですが、承句が浮いているように感じます。 また、「蝶が飛んできて、友達がやって来て」というのは関連が無い分、違和感があります。
 「年を越した蝶」ということで「来年も元気でいよう」という気持ちを象徴させるならば、この句を結句に置いた方が良く、そうなると、順にずらす形でしょうか。
 



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第189作は芙蓉漢詩会の T.E さん(静岡市)からの作品です。
 

作品番号 2018-189

  上高地逍遙        

嶽麓坦然光景雄   岳麓坦然 光景雄たり

孤筇信歩仰蒼穹   孤筇歩に信(まか)し 蒼穹を仰ぐ

岩峰不語洗心覺   岩峰語らず 洗心覚ゆ

留得千秋白雪工   留め得て千秋 白雪)工(たくみ)なり

          (上平声「一東」の押韻)



<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    上高地逍遙  
  嶽麓坦然光景雄
  孤筇信歩仰蒼穹
  岩峰不語洗心覺
  殘雪千秋留得工

 以下はその折の私の感想です。

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 起句の雄大な景色から、承句は一気に作者を描いて小さくなり、また転句から拡がるという流れですね。

 全体に問題無いですが、結句は「留得千秋白雪工」と並べた方が句が強くなりますね。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第190作は芙蓉漢詩会の T.E さんからの作品です。
 

作品番号 2018-190

  寒夜憶鐡瓶沸騰        

沸沸聲微靜寂中   沸々として声微に静寂の中

上騰氣發霧消空   上騰の気発す 霧消空し

人生如此感懷湧   人生 此くの如く 感懐湧く

老大泰然何日終   老大泰然として何の日か終らん

          (上平声「一東」の押韻)

「上騰」: 上にのぼる
「壮悍」: 盛にして勇ましいこと(青年期)
「老成」: 経験を積んで成就すること(老年期)

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    寒夜憶鉄瓶沸騰  
  沸沸聲微靜寂中
  上騰氣發霧消空
  人生之似感懷起
  壯悍老成何日終

 以下はその折の私の感想です。

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 面白い素材を持ってきましたね。

 転句の「之似」は文法的に間違いで、「似之」でなくてはいけません。それでは平仄が合いませんので「人生如此」。

 結句は「青年期や老年期はいつ終るのか」ということで、鉄瓶の湯気を見ながら考えたことというのは分かります。
 しかし、「青年期」ならば何時終ったかは分かるし、わざわざ書くのは良く分かりません。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第191作は芙蓉漢詩会の M.S さん(浜松市)からの作品です。
 

作品番号 2018-191

  登乘鞍嶽        

空中索道趣山巓   空中索道 山巓に趣く

萬仭峰巒亂嶂天   万仭の峰巒 乱嶂の天

霧塞濛濛催急雨   霧塞濛々 急雨を催す

澄神雷鳥在雲煙   神を澄まし雷鳥 雲煙に在り

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 観光バスにて乗鞍岳に行き、中腹よりロープウエイに乗り山頂に登り、雷鳥親子に遭遇し、楽しいひと時を過ごし登山の雰囲気を味わいました。

<感想>

 起句の「趣」は「赴」の方が自然ですね。

 雄大な乗鞍岳と拡がる山々を描いた承句は、よく工夫されていて、「亂嶂天」は見事ですね。

 突然の雨も山の天気らしく、雷鳥も信州を表していますが、「澄神」はよくわかりません。これは「雷鳥」のことか、作者のことか、詩をまとめる結句ですので、詰め込みすぎないようにしたいですね。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第192作は芙蓉漢詩会の M.S さんからの作品です。
 

作品番号 2018-192

  登富士山        

晴嵐富士白雲懸   晴嵐の富士 白雲懸る

絶景尊嚴東海天   絶景尊厳 東海の天

萬籟崢エ成底事   万籟崢エ(そうこう) 底事(なにごと)をか成さん

六根清淨拜山巓   六根清浄 山巓に拝す

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 乗鞍岳の漢詩を書いていると、二十代の若い頃、富士登山に行き苦労したことを思いだし、書いてみました。

<感想>

 「晴嵐」は山にかかる気、霞ですので、更に「白雲懸」は勢いはありますが、屋上屋でしょうか。

 承句も富士山を讃えた良い句ですが、これから登山しようという感じではないので、臨場感が落ちます。登山者目線が欲しいところです。

 転句は「萬籟」「崢エ」「成底事」がバラバラですので、どれかを削って整理すると良いですね。

 結句はうまく収まりました。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第193作は芙蓉漢詩会の 洋靖 さん(浜松市)からの作品です。
 

作品番号 2018-193

  觀菊        

晩秋佳節菊花香   晩秋 佳節 菊花香る 

競美爭姸誇麗粧   美を竸ひ 妍を争ひ麗粧誇る

淹歳手栽培養力   淹歳の手栽 培養の力

幽庭奪目賞心昌   幽庭 目を奪ひ 賞心昌(さかん)なり

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 今年も丹精込めたて作った菊が美を競ってきれいに咲いた。

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    観菊  
  晩秋佳節菊園香
  競美C妍誇麗粧
  千古手栽培養力
  幽庭奪目賞心昌

 以下はその折の私の感想です。

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 女性らしい細やかな詩です。

 承句の「清研」は「争姸」とした方がリズムも良いですね。

 転句は、「千古」としたので、伝統としての菊栽培という話になっています。個人として丹精を振り返るならば、「淹歳(久しい歳月)」でしょう。

 結句は、ここに「庭」を置いても起句に「園」があるので生きません。起句の方を「菊花」で良いと思います。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第194作は芙蓉漢詩会の 洋靖 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-194

  井伊直虎        

主家大事必抽藩   主家の大事 必ず藩(まも)り抽(ぬきん)ぜんと

戦國亂階謀略翻   戦国乱の階(きざし)に 謀略翻し

城主尼形軍所驅   城主尼形 軍所駆け

警牢恃立遠州坤   警牢恃(たの)み立つ 遠州の坤(ち)

          (上平声「十三元」の押韻)

「地頭」: 城主
「軍所」: 戦場
「警牢」: 守り固める
「坤」: 地


<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    井伊直虎
  井伊家系必抽藩
  戦國亂階知略翻
  女傑地頭軍所驅
  警牢勇立遠州坤

 以下はその折の私の感想です。

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 承句は「階」ですが、「徴」とか「期」が良いでしょう。

 結句の「勇立」は和語かと思います。「峙立」か「安堵」「コ治」でどうでしょう。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第195作は芙蓉漢詩会の 常春 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-195

  晩秋山野        

植林原野勢姿豪   植林の原野 勢姿豪たり

返照浚明堆葉高   返照浚(さら)ひ明かす 堆葉の高きを

何奈今冬猪鹿害   何奈ぞ今冬 猪鹿の害

莫妨拷サ熱誠勞   妨ぐ莫かれ 緑化熱誠の労を

          (下平声「四豪」の押韻)



<解説>

 柿田川みどりのトラストが、富士山南麓で植樹を初めて、二十一年、湧水の減少がきっかけという。
 秋のドングリ拾い、家庭で苗木に育て、苗場に植え替え育ててから、現地植樹となる。
 大変な労力だ。
 そして鹿の食害を防ぐ網も欠かせない。

<感想>

 こうした地道な地域の活動が、自然を守っているということを改めて思いました。

 21年ということですと、活動なさっていらっしゃる方々の顔ぶれも交替があったと思いますが、継続なさっているご努力に本当に敬意を表したいと思います。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第196作は芙蓉漢詩会の 常春 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-196

  駿河湾異聞        

還潮迂遠駿河灣   還潮 迂遠す 駿河湾

灣内小魚魚影閑   湾内の小魚 魚影閑たり

閑散漁家門戸鎖   閑散たる漁家 門戸鎖す

鎖愁只待一途還   愁ひを鎖し只だ待つ 一途還るを

          (上平声「十五刪」の押韻)



<解説>

 昨年駿河湾のシラス漁さっぱりだった。今春いくらか回復しているようだ。

<感想>

 連還体の詩は、各句の末字を次の句の頭に置き、結句の末字から起句に戻るという形で、詩を楽しむ技法です。
 しかし、その技法の面白さだけではなく、詩として全体が整い、文脈に齟齬が無いようにしなくてはいけませんので、総合的な視点からの詩に取り組むことが求められます。

 常春さんは回文体の詩も楽しんでいらっしゃいますので、本当に漢詩を楽しんでいらっしゃるのだなぁと感じます。

 今回の詩では、「還潮」「一途還」とか、「門戸鎖」「鎖愁」の展開など、詩想が広がっていくような面白さがあります。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第197作は芙蓉漢詩会の 愚游 さん(浜松市)からの作品です。
 

作品番号 2018-197

  磐座遺跡        

疎梅細蕾渭伊宮   疎梅 細蕾 渭伊(いい)の宮

山徑纔登寂靜充   山径 纔に登れば寂静充てり

巨石鋒稜C六氣   巨石の鋒稜 六気を清め

維綱連理坐春風   維綱の連理 春風に坐す

          (上平声「一東」の押韻)



<解説>

 磐座(いわくら)遺跡は伊井谷(浜松市細江町)の龍潭寺の北方徒歩十分余の所にあります。
 連立する石群の中でひときわ目立つ双つの巨石に大きな綱が結ばれて、夫婦岩の如く仲良く屹立しています。

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    磐座遺跡
  疎梅細蕾渭伊宮
  山徑纔登寂靜充
  巨石鋒稜C六氣
  維綱比翼坐春風

 以下はその折の私の感想です。

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 まとまった詩だと思います。
 結句の「維綱比翼」ですが、綱でつながるならば「連理」の方がすっきりします。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第198作は芙蓉漢詩会の 愚游 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-198

  萬華鏡        

接眼窺筒七寶回   眼を接づけ筒を窺へば 七宝回り

金葩銀蕾百花開   金葩 銀蕾 百花開く

櫻梅自使春心蠢   桜梅 自ら春心蠢かしむ

變幻榮華映鏡頽   変幻の栄華 鏡に映じて頽(くず)る

          (上平声「十灰」の押韻)



<感想>

 承句の「百花」は適切な数だと思います。

 結句は「鏡裏頽」とした方がインパクトが強いのではないでしょうか。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第199作は芙蓉漢詩会の 愚游 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-199

  我輩犬也 時羨懶猫        

我輩衛家酬主恩   我輩 家を衛り主恩に酬ふ

君乎放蕩入朱門   君や 放蕩して朱門に入る

送夫馴婦午時寂   夫を送り 婦に馴まば午時寂たり

坐毯眠綢春日暄   毯に坐し 綢に眠りて春日暄なり

忠厚凡凡爲暇逸   忠厚凡々として暇逸を為し

佚遊特特被塵煩   佚遊特々として塵煩を被る

傷心欲問迷妄切   傷心 迷妄切なるを問はんと欲す 

奈此犬猫醒醉魂   奈んせん此の犬猫 酔魂醒める

          (上平声「十三元」の押韻)



<解説>

我輩ハ犬ジャガ
時ニ猫殿ヲ羨マシクナル
吾輩ハ家ヲ衛リ主人ニ酬イルモ
君ハ勝手気ママニ金持チノ家ニ出入リス
吾ハ尾ヲ振リフリ人ニ馴ツク毎日ジャガ
君ハ毛氈ニ坐リ春日ノ温カナ中デ居眠リシトル
吾ハ日々真面目ニ平々凡々ニ召シイテイルガ
君ハ往キ来賑ヤカニ遊ビ浮カレテオルガ
君ヲ見テイルト
我輩ノ心ニ痛ミ迷イガ起キテ切ナクナルノジャヨ
犬猫ノ暮ラシブリ如何ナモンジャロカ
ホロ酔イ気分ガ覚メテシマイマスワ


<感想>

 「我が輩は猫」ではなく、犬というところが発想の楽しさですね。

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    我輩犬也
  我輩衛家酬主恩
  君乎放蕩上朱門
  送夫馴婦午時寂
  坐毯貪眠春日暄
  忠僕凡凡爲暇逸
  佚遊特特被塵煩
  傷心欲問迷妄切
  奈此犬猫醒醉魂

 以下はその折の私の感想です。

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 二句目は「上朱門」ですと「出世した」となりますので、「入朱門」が良いでしょう。

 頷聯下句は句中対にすべきで、「坐毯眠綢」などでしょうか。

 頸聯は上二字の対を、「忠厚-佚遊」か「忠僕-逸民」のどちらかかと思います。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第200作は芙蓉漢詩会の 緑楓林 さん(湖西市)からの作品です。
 

作品番号 2018-200

  冬夜書懷        

瓶梅放馥紙窓寒   瓶梅 馥を放ち 紙窓寒し

涙滴孤灯形影單   涙滴の孤灯 形影単たり

添炭詩書冬夜永   炭を添へ 詩書 冬夜永く

菅公遠憶月侵欄   菅公 遠く憶ふ 月欄を侵す

          (上平声「十四寒」の押韻)



<感想>

 結句の「菅公」がどのあたりから浮かんできたのか、詩では分からないのですが、どこかにヒントがあるのでしょうか。

 転句の「添炭」「冬夜永」はつながりますが、「詩書」では浮いています。「耽書」「読書」など動作を表す言葉が欲しいところ。
「詠詩」とすると、すこし「菅公」につながるかもしれません。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第201作は芙蓉漢詩会の 緑楓林 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-201

  對梅懷人        

黄昏三徑薄寒天   黄昏 三径 薄寒の天

冷艶一枝春月前   冷艶 一枝 春月の前

難忘青山君去遠   忘れ難きの青山 君去りて遠し

清香千里托吟箋   清香 千里 吟箋に托す

          (下平声「一先」の押韻)

<感想>

 起句はそれぞれが繋がりの無い言葉が並んでいます。「黄昏二月薄寒天」として天候関係に揃えてはどうでしょうか。

 承句は下三字に「林徑前」でしょうか。

 後半は「難忘」のは「君」なのでしょうが、「青山」が入ったために故郷が恋しいのか、ということは作者は故郷を離れていて、そうすると「君」は故郷から千里離れた処にいるのか、と色々思いました。余分な言葉ですね。

ただ、逆にここに「青山」が無くて「難忘君去遠」だと前半の二句との繋がりがまったくありませんし、悩ましいところですね。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第202作は芙蓉漢詩会の 恕庵 さん(富士宮市)からの作品です。
 

作品番号 2018-202

  早春觀雪        

怪看庭院白   怪しみ看る 庭院の白きを

不識暮寒生   識らず 暮寒の生ずるを

何計頻飛雪   何ぞ計らん 飛雪の 頻なる

佳哉眼界C   佳なる哉 眼界の清し

          (下平声「八庚」の押韻)



<解説>

 体調を整えようと努力しつつも今年は特に寒さ厳しく、身にこたえました。しかし、雪の朝の印象は記憶に残りました。

<感想>

 「怪」「不識」「何計」「佳哉」と感情語が多く、五言絶句ではもったいないように思います。

 起句を「怪看窗外白」、承句を「庭院暮寒生」としてはどうでしょう。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第203作は芙蓉漢詩会の 恕庵 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-203

  偶成        

春日東風暖   春日 東風 暖かなり

庭櫻半落花   庭桜 半ば落花

池邊垂柳   池辺の垂柳 緑に

鳥影堕窗紗   鳥影 窓紗に堕つ

          (下平声「六麻」の押韻)



<解説>

 当たり前と思うような、こんな春の日を夢見つつの作。

<感想>

 転句までは屋外に居るかと思いますので、結句がやや意外な印象。
 それも五言絶句の面白さとも言えますが。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第204作は芙蓉漢詩会の Y.H さん(浜松市)からの作品です。
 

作品番号 2018-204

  冬日偶成        

新霜満瓦破窓凝   新霜 瓦に満ち 破窓凝る

楓樹紅殘落葉増   楓樹 紅は残り 落葉増す

陋屋史書閑読趣   陋屋 史書 閑読の趣

不知爐滅骨身氷   炉滅すること知らず 骨身氷る

          (下平声「十蒸」の押韻)



<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    冬日偶成
  新霜満瓦小窓凝
  楓樹紅殘落葉増
  閑読史書偏有趣
  不知爐滅骨身氷

 以下はその折の私の感想です。

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 冬の日の雰囲気がよく出ていると思います。

 起句の「小窓」は「破窓」が良いでしょう。

 転句は「陋屋史書閑讀趣」と入れ替えた方が読みやすいでしょう。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第205作は芙蓉漢詩会の Y.H さんからの作品です。
 

作品番号 2018-205

  冬雪        

嚴冬寒雨化飄霙   厳冬 寒雨 飄霙と化し

一日暗雲風雪生   一日暗雲 風雪生ず

料識窓前変光景   料り識る窓前 光景変はり

婆娑一白月三更   婆娑一白 月三更

          (下平声「八庚」の押韻)

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    冬雪
  暗雲寒雨化飄霙
  日暮厳冬風雪生
  料識窓前変光景
  婆娑一白月三更

 以下はその折の私の感想です。

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 前半は「暗雲」「厳冬」を入れ替えた方が収まりが良いでしょう。

 結句の「婆娑」はひらひらと雪が一面に積もったということでしょうが、承句で「日暮」と言っておいて「三更」(真夜中)は時間が長すぎるような気もしますが、許容範囲でしょうか。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第206作は芙蓉漢詩会の Y.H さんからの作品です。
 

作品番号 2018-206

  春日偶興        

春草萋萋花綻時   春草 萋萋として 花綻ぶの時

水堤小徑柳條垂   水堤の小径 柳條垂る

鶯鳴何處午風度   鶯鳴き 何処に午風度る

殘雪連峰發興奇   残雪の連峰 興を発して奇なり

          (上平声「四支」の押韻)

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    春日偶興
  春草萋萋花綻時
  水堤小徑柳條垂
  鶯鳴香漬東風度
  殘雪連峰發興奇

 以下はその折の私の感想です。

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 前半は破綻無く整っていると思います。

 転句は「香漬」が何の香なのか、わかりません。
ここは「鶯鳴何處午風度」でしょう。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第207作は芙蓉漢詩会の Y.H さんからの作品です。
 

作品番号 2018-207

  同窓會        

古希朋輩祝呈祥   古希の朋輩 祥を呈するを祝す

面影幽殘再會慶   面影幽かに残り 再会を慶ぶ

醉笑高歌談不盡   酔笑高歌 談尽きず

切願壮健永生望   切に願ふは壮健 永生を望む

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 高校の同窓会が泊まりで伊東温泉で行われた。

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    同窓會
  古希朋輩喜呈祥
  面影幽殘再會慶
  呑唄笑談同友枕
  切祈壮健永生望

 以下はその折の私の感想です。

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 起句の「喜」と結句の「慶」と同じ意味の言葉が並ぶのは良くないですね。

 承句の「面影」は和語ですので、ここも直す必要がありますね。

 転句もまた「友」が出て来ますが、この句は「醉笑高歌談不盡」でしょうか。

 結句の「祈」は「願」の方が緩くて良いでしょう。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第208作は芙蓉漢詩会の 洋景 さん(浜松市)からの作品です。
 

作品番号 2018-208

  富嶽        

尋來客舎景佳全   尋ね来たる客舎  景佳全し

夕映芙蓉聳眼前   夕映の芙蓉 眼前に聳ゆ

刻刻變容収腦裏   刻々の変容 脳裏に収む

洗心忘我醉天仙   洗心 我を忘れ 天仙に酔ふ

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 知人に富士山を見るならば日本平ホテルが良いと聞き行 って来ました。
 その美しい姿は、脳裏に焼きつき忘れることはないでしょう。


<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    富嶽
  尋來客舎景佳全
  夕映芙蓉聳眼前
  實感靈峰誇世界
  洗心忘我醉天仙

 私には直すところのない詩だと思いましたが、合評会の席上で「實感」に疑問が出されました。



2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第209作は芙蓉漢詩会の 洋景 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-209

  訪松源寺        

碧天秋日孤村頭   碧天秋日 孤村の頭

南信梵宮史悠   南信 梵宮 青史悠かなり

幾想家郷井伊里   幾たびか想ふ 家郷 井伊の里

直親吹笛四邊流   直親 吹笛 四辺に流る

          (下平声「十一尤」の押韻)



<解説>

 大河ドラマの最中に、直親の匿われていた南信州の高森町にある松源寺を友人と訪ねました。

 山深く城跡もあり、そこで武芸を磨いていたようです。
 其処で直親が故郷を思い、吹いていたのが、青葉の笛と言われているようです。
 成人して井伊谷に帰る途中、渋川の八幡神社にお礼として奉納し、今でも大切に保管されているようです。

 直親は直虎の従兄の子、直政の父親。

<感想>

 合評会でいただいた初案は次の形でした。

    訪松源寺
  碧天秋日孤村頭
  南信梵宮史悠
  復想家郷井伊里
  直親吹笛四邊流

 以下はその折の私の感想です。

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 全体に整っている詩だと思います。

 転句は「幾」として、「復」よりも回数が多いようにしたいですね。




2018. 7.27                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第210作は芙蓉漢詩会の 洋景 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-210

  春遊        

韶光燦燦歩遊之   韶光 燦燦 歩遊して之(ゆ)く

滿目東郊草色滋   満目 東郊 草色滋し

清水畔涯香雪漲   清水 畔涯 香雪漲り

暖風邑里秀芳吹   暖風 邑里 秀芳吹く

女児拾翠可憐飾   女児は翠を拾ひ 可憐に飾り

父母並肩慈愛姿   父母は肩を並べ 慈愛の姿

待望嬉春如夢裏   待望の嬉春 夢裏の如し

百花歴亂賞心時   百花歴乱 賞心の時

          (上平声「四支」の押韻)



<感想>

 七言の律詩も整った形になっていると思います。

 頷聯は「香雪」「秀芳」がどちらも花ですので、替えた方が良いでしょう。

 あと、第五句は「拾翠」がよく分かりません。緑色の羽?宝石? もう少し導入が要るでしょう。



2018. 7.27                  by 桐山人