2018年の投稿詩 第361作は静岡の芙蓉漢詩会の 柳村 さん(富士市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-361

  偶成        

節入立秋蟬語長   節は立秋に入り 蝉語長し

高天如水隱昏黄   高天水の如く 昏黄穏やかなり

西風一脈炎威去   西風一脈  炎威去り

浴後傾杯洗俗腸   浴後 杯を傾け 俗腸を洗ふ 

          (下平声「七陽」の押韻)























 2018年の投稿詩 第362作は静岡の芙蓉漢詩会の 柳村 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-362

  賽高山雲龍寺        

僧談寺史古禪堂   僧は寺史を談る 古禅堂 

五百星霜法運昌   五百の星霜 法運昌(さか)んなり 

日暮幽庭人影去   日暮の幽庭 人影去り 

西風一脈弄秋光   西風一脈 秋光を弄す 

          (下平声「七陽」の押韻)























 2018年の投稿詩 第363作は静岡の芙蓉漢詩会の 柳村 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-363

  濱名湖舘山寺賞月        

遠訪禪宮爽氣流   遠く禅宮を訪へば 爽気流る 

蟲聲處處使人愁   虫声處々 人をして愁へしむ 

請看挂鏡舘山月   請ふ看よ 鏡を挂(か)く 舘山(かんざん)の月 

湖上西風三五秋   湖上の金波 三五の秋 

          (下平声「十一尤」の押韻)























 2018年の投稿詩 第364作は静岡の芙蓉漢詩会の 柳村 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-364

  從田子浦望富嶽        

八朶靈姿映雪輝   八朶の霊姿 雪輝に映ず 

長汀十里海風微   長汀十里 海風微かなり 

嗟乎歌聖絶佳句   嗟乎(ああ) 歌聖 絶佳の句 

朗詠悠然未欲歸   朗詠すれば悠然 未だ帰るを欲せず 

          (上平声「五微」の押韻)























 2018年の投稿詩 第365作は静岡の芙蓉漢詩会の 辰馬 さん(静岡市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-365

  初夏即事        

鄰家簷宇小禽繁   隣家の簷宇 小禽繁く 

欲餌兩三雛命尊   餌を欲する 両三の雛の命尊し 

閑坐幽吟心氣爽   閑坐して幽吟 心気爽やかなり 

親朋方現共傾樽   親朋方に現わる 共に樽を傾く 

          (上平声「十二元」の押韻)























 2018年の投稿詩 第366作は静岡の芙蓉漢詩会の 辰馬 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-366

  大社旅行        

出雲空港翠煙陬   出雲空港 翠煙の陬(すみ) 

宍道湖邊燭燿樓   宍道(しんじ)湖(こ)辺 燭燿(しょくよう)の楼 

喜壽金婚参拝旅   喜寿 金婚 参拝の旅 

神前比翼玉顔柔   神前 比翼 玉顔柔らか 

          (下平声「十一尤」の押韻)























 2018年の投稿詩 第367作は静岡の芙蓉漢詩会の F.U さん(袋井市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-367

  戊戌新年偶感        

無限春光映彩霞   無限の春光 彩霞に映じ 

惠風吹度入梅華   恵風吹き度り 梅華に入る 

迎來戊戌古稀壽   迎へ来る戊戌 古稀の寿 

白首殘年復那加   白首残年 復(ま)た那(なに)をか加へん 

          (下平声「六麻」の押韻)























 2018年の投稿詩 第368作は静岡の芙蓉漢詩会の F.U さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-368

  初夏偶成        

幽篁戛玉午風C   幽篁 戛(かつ)玉(ぎょく) 午風清し 

黄鳥關關尚弄聲   黄鳥関関として 尚ほ声を弄す 

獨坐草堂閑煮茗   独り草堂に坐し 閑かに茗を煮る 

拷A深處寄吾生   緑陰深き処 吾が生を寄す 

          (下平声「八庚」の押韻)























 2018年の投稿詩 第369作は静岡の芙蓉漢詩会の T.E さん(静岡市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-369

  憶広島原爆投下七十三年        

一閃廢墟怨嗟縈   一閃の廃墟 怨嗟縈(めぐ)る 

今猶希冀泰寧情   今猶ほ 希冀する泰寧の情 

学童代表平和誓   学童の代表 平和の誓ひ 

語繼衷心悲憤聲   語り継ぐ衷心 悲憤の声 

          (下平声「八庚」の押韻)























 2018年の投稿詩 第370作は静岡の芙蓉漢詩会の T.E さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-370

  吐月峰柴屋寺名月        

宗長傳世古今心   宗長世に伝ふ 古今の心 

独訪僧堂客夢深   独り訪ふ僧堂 客夢深し 

秋月松梢柴屋寺   秋月 松梢に柴屋寺 

清光益冴夜沈沈   清光益ます冴えて 夜沈沈 

          (下平声「十二侵」の押韻)


「宗長」: 連歌師(1448年島田に生まれる、1532年没)今川氏親に仕え、氏親没後は柴屋寺に引きこもる。





















 2018年の投稿詩 第371作は静岡の芙蓉漢詩会の K.K さん(静岡市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-371

  炎天詩        

影短風無白日熒   影は短し風は無く 白日熒かに 

呼呼吸吸息將停   呼呼吸吸 息将に停らんとす 

誰知上帝判何罪   誰か知らん 上帝何の罪にて判じ 

八九衰殘受火刑   八九の衰殘 火刑を受けんとは 

          (下平声「九青」の押韻)























 2018年の投稿詩 第372作は静岡の芙蓉漢詩会の K.K さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-372

  蜩聲        

夕陽欲落貫枝間   夕陽 落ちんと欲して 枝間を貫く  

小佇林風洗暑艱   小佇すれば 林風暑艱を洗ふ 

禍福如波来又去   禍福は波の如く来たり又去る 

蜩声有感対霊山   蜩声感有り 霊山に対す 

          (上平声「十五刪」の押韻)


 落日の 光は長く 枝を射り
 風は颯々 暑を払う
 苦楽のさまは 波に似て
 来ると思えば また去りぬ
 蜩細く 鳴き始め
 有情の空に 富士の山
 ひぐらしを  グラスに満たし 富士を飲む
























 2018年の投稿詩 第373作は静岡の芙蓉漢詩会の K.K さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-373

  秋日山村        

龍河遡上絶人声   龍河遡上すれば 人声絶ゆ 

虎嶽遮陽産暗阬   虎岳 陽を遮り 暗阬を産ず 

造化非情無寸土   造化の非情 寸土無きも 

秋風瞥見有農耕   秋風に瞥見す 農耕有るを 

          (下平声「八庚」の押韻)


 天竜川のずっと上流に、山間の僻地は深い谷の底で午後になると既に太陽も高い山に吸い込まれそうだ。
 こんなに厳しく暮らしにくいところで、人はどうやって生計を立てているのかと思う。
 造化の神の仕業は非情であるが、ふと見ると、それでも山の斜面で農作業をしている人がいた。
  「木枯らしや 何に世渡る 家五軒」
 蕪村の句をしみじみと思った。

























 2018年の投稿詩 第374作は静岡の芙蓉漢詩会の K.K さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-374

  小皇帝        

未到三旬已得猷   未だ三旬に至らず 已に猷(はかりごと)得たり 

微微哭笑動双侯   微微たる哭笑 双侯を動かす 

家中擁有貪皇帝   家中 貪皇帝を擁する有り 

夢裏猶探兩乳頭   夢裏に猶探す 両乳頭 

          (下平声「十一尤」の押韻)


二か月ほどの赤ちゃんは、もう生きる術を備えて、ちょっと泣いたり微笑んだだけで両親を自在に操る。
まったく、家には欲の深い皇帝がいるようで、夢の中でも小さな手は、オッパイを探している。























 2018年の投稿詩 第375作は静岡の芙蓉漢詩会の H.K さん(浜松市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-375

  白檜曾高原        

白檜曾林九折行   白檜曾(しらびそ)の林 九折の行(みち) 

深山驚觀数家郷   深山驚き観る 数家の郷 

雪巒赤石眺望擅   雪巒の赤石 眺望擅(ほしいまま)にす 

淑浄高原塵世忘   淑浄 高原 塵世を忘る 

          (下平声「七陽」の押韻)


南信濃、白檜曾高原にドライブ、つづら折の坂を上る事、約一時間
人里離れた奥深い山に、二・三の家が見える。
赤石連邦の山々の新雪を眺める、
静かな高原は淑浄、世の中を忘れさせてくれる。。























 2018年の投稿詩 第376作は静岡の芙蓉漢詩会の H.K さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-376

  山河眺望        

夏天一掃鏡湖風   夏天一掃 鏡湖の風 

林樹蒼蒼郊野蓬   林樹蒼蒼 郊野蓬(しげ)る 

逝水潺湲飛鳥叫   逝水 潺湲 飛鳥が叫ぶ 

山河眺望翠微中   山河眺望 翠微の中で 

          (上平声「一東」の押韻)


澄みわたる空に、穏やかな風が鏡のような湖を通り、
遠くの木々は青々と生い茂り 野原の揺れ動く音
流れ去る水のさらさらと流れる音、飛ぶ鳥の鳴き声等、
静物が発する音を聞きながら、山河を緑の深い山の中腹から見渡す


 





















 2018年の投稿詩 第377作は静岡の芙蓉漢詩会の M.S さん(浜松市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-377

  朧月夜富士        

晴嵐萬丈滿盈閑   晴嵐万丈 満盈閑なり 

絶勝靈峰富士山   絶勝霊峰 富士の山 

頂上煌雲朧戴月   頂上の煌雲 朧ろに月を戴き 

天明湖畔是仙寰   天明の湖畔 是れ仙寰 

          (上平声「十五刪」の押韻)

友人より戴いた写真、が真珠のように輝き感動いたしました。
さっそく詠んでみました。























 2018年の投稿詩 第378作は静岡の芙蓉漢詩会の M.S さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-378

  我街高丘        

萩花發遍昔時丘   萩花発いて遍し 昔時の丘 

戰後荒耕七十秋   戦後の荒耕 七十の秋 

往事追懷糊口念   往時追懐 糊口の念 

街坊難視野芳萩   街坊難視 野芳の萩 

          (下平声「十一尤」の押韻)

戦後の荒れた原野に開拓者として入植し、粥をすすりながら働き、今は野に咲く萩の花も見えない街になってしまいました。






















 2018年の投稿詩 第379作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋靖 さん(浜松市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-379

  聽蟲聲        

斜日漸沈殘暑收   斜日漸く沈み 残暑収まる 

天空如水月光幽   天空 水の如く 月光幽なり 

叢中絡緯咽窓外   叢中絡緯 咽ぶ窓外で 

妙韻連綿坐惹愁   妙韻連綿 坐ろに愁を惹く 

          (下平声「十一尤」の押韻)
























 2018年の投稿詩 第380作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋靖 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-380

  冬夜讀書        

北風凛冽雁聲寒 北風 凛冽 雁の声寒し   

活火爐邊披典刊 活火 炉辺 典刊を披く   

赤壁詩篇珠玉調 赤壁の詩篇 珠玉の調べ   

醍醐方得接賢歡 醍醐 方に得たり 接賢の歓び   

          (上平声「十四寒」の押韻)
























 2018年の投稿詩 第381作は静岡の芙蓉漢詩会の 常春 さん(榛原郡)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-381

  納涼        

滑稽夙聞出雲謡   滑稽 夙に聞こゆ 出雲の謡 

唱和探鰌歩折腰   唱に和し鰌(どじょう)を探る 歩み折腰 

響瀬舞臺沿路衆   響瀬の舞台 沿路の衆 

充盈愉色納涼宵   愉色 充ち盈つ 納涼の宵 

          (下平声「二蕭」の押韻)


「愉色」: 喜び溢れた顔色

一日一往復の静岡―出雲空港便を記念した三泊のツアーに七月下旬参加した。
第一夜、玉造温泉の宿の前、小川にかかる舞台での余興。
締めくくりの安来節は最高だった。























 2018年の投稿詩 第382作は静岡の芙蓉漢詩会の 常春 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-382

  佇廣島平和公園夜        

遺樓曝骨月光孤   遺楼 骨を曝して 月光に孤 

七十三年姿不渝   七十三年 姿(すがた)渝(かわ)らず 

廣島悲酸長久語   広島の悲酸 長久に語らんと 

秋冬春夏萬人呼   秋冬春夏 万人呼ばはる 

          (上平声「七虞」の押韻)


第三夜、広島泊。僕が原爆ドームを初めて見たのは六十六年前1957年、街のあちこちに原爆の痕跡が見られた。





















 2018年の投稿詩 第383作は静岡の芙蓉漢詩会の 常春 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-383

  聞報道唖然        

父更折檻母無翳   父 折檻 更(こもごも)するも 母翳ふなく 

痩細猶書心可憐   痩せ細りて 猶書す 心可憐 

幼女悲哀消那處   幼女の悲哀 那処(いずこ)に消えしか 

震驚報道涙潸然   震驚の報道 涙潸然たり 

          (下平声「一先」の押韻)

 虐待、殴打にとどまらず食事も与えず、我が子を死亡させた両親。
 そして、その子が毎朝ひらがな練習、書き残した言葉に、只涙するばかり。























 2018年の投稿詩 第384作は静岡の芙蓉漢詩会の 常春 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-384

  大草山上夜景        

炯迫白燈雙遠紅   炯として迫る白灯 双(なら)び遠のく紅 

湖頭不夜駐停洪   湖頭 不夜 駐停洪(あふ)る 

瞰臨公道眼花繚   瞰(み)臨(おろ)す公道 眼花繚たるも 

仰望星天今古同   仰望すれば 星天 今古同じ 

          (上平声「一東」の押韻)


「眼花繚」: 目まぐるしい


大草山上のホテル。窓から見る湖右手は、パーキング。
右すぐ下に東名高速道が見え、続続と迫り来る車のライト一つ一つがウロコのよう、大蛇さながら。
並ぶ下り線は尾灯が薄れゆく。
























 2018年の投稿詩 第385作は静岡の芙蓉漢詩会の 岳游 さん(浜松市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-385

  七竅        

七竅聚頭司汝知   七竅 頭に聚まり汝が知を司る

五官秘寶更無疑   五官 宝を秘めて更に疑ひ無からん

醜聲鼻哂蒼蠅影   醜声 鼻哂(しゅうせいびしん) 蒼蠅の影

口過舌鋒黄口兒   口過 舌鋒 黄口の児たり

冷眼巧言情性愧   冷眼巧言 情性愧(はじら)ひ

溫顔朴訥晩成奇   温顔朴訥 晩成奇(すぐ)る

見聞濁世易馴悪   見聞の濁世 悪に馴れ易く

恒有蘭交且我師   恒に蘭交の有りて且に我が師とせん

          (上平声「四支」の押韻)


「七竅」: 七つの穴、耳目鼻のそれぞれ二つと口





















 2018年の投稿詩 第386作は静岡の芙蓉漢詩会の 岳游 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-386

  裸婦素描        

朋儕調畫架   朋儕(ほうさい) 画架を調(ととの)へ

綽約拂羅裳   綽約 羅裳を払ふ

翠黛千金笑   翠黛 千金の笑

紅唇百媚香   紅唇 百媚香せ

繊腰伸玉指   繊腰 玉指伸び

才貌搖瑛瑭   才貌 瑛瑭揺れる

寫出良工手   写し出す 良工の手

圖成既夕陽   図成る 既に夕陽たり

          (下平声「七陽」の押韻)























 2018年の投稿詩 第387作は静岡の芙蓉漢詩会の 緑楓林 さん(湖西市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-387

  苦寒        

凍雲漠漠夜深天   凍雲 漠漠として 夜深の天 

霜雪侵窓風冷然   霜雪 窓を侵し 風冷然たり 

孤影小齋寒氣酷   孤影 小斎 寒気酷し 

敝袍呵手與詩仙   敝袍 手を呵す 詩仙と与に 

          (下平声「一先」の押韻)























 2018年の投稿詩 第388作は静岡の芙蓉漢詩会の 緑楓林 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-388

  遠州灘        

松韻飄飄似浩歌   松韻飄飄 浩歌に似る 

長汀瀲灔去来波   長汀瀲灔として 去来する波 

接空滄海遠州灘   空に接す 滄海 遠州灘 

遙望霊峰詩趣多   遥かに望む 霊峰 詩趣多し 

          (下平声「五歌」の押韻)























 2018年の投稿詩 第389作は静岡の芙蓉漢詩会の Y.H さん(浜松市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-389

  潮見坂        

潮光搖蕩遠州灘   潮光 搖蕩 遠州の灘 

散碎波濤響翠瀾   散り碎く波濤 翠瀾響く 

更上遠望浮世畫   更に上り遠望す 浮世の画(え) 

靈峰富士正堪看   霊峰富士 正に看るに堪へたり 

          (上平声「十四寒」の押韻)























 2018年の投稿詩 第390作は静岡の芙蓉漢詩会の Y.H さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-390

  五山梵鐘        

湖北翠微斜日前   湖北の翠微 斜日の前 

歸鴉目送暮煙天   帰鴉 目送す 暮煙の天 

五山鐘韻郷村響   五山の鐘韻 郷村に響く 

古刹高名百代傳   古刹 高名 百代伝ふ 

          (下平声「一先」の押韻)


「湖北」: 奥浜名湖
「五山」: 大福寺、魔訶耶寺、方広寺、龍潭寺、初山宝 林寺





















 2018年の投稿詩 第391作は静岡の芙蓉漢詩会の Y.H さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-391

  弁天夕陽        

夕陽今切照湖流   夕陽の今切(いまぎれ) 湖を照らして流れ 

波上紅朱華表浮   波上 紅朱 華表浮かぶ 

松燭焚漁風物筏   松燭を焚いての漁 風物の筏 

美觀情趣遠江州   美觀情趣 遠江の州 

          (下平声「十一尤」の押韻)


「今切」: 今切口。太平洋と浜名湖で繋がっている。
「華表」: 鳥居
「松明」: たいまつの灯り
「筏」: たいまつを焚いての漁(たきや漁)。地元に伝わる伝統的な漁法。






















 2018年の投稿詩 第392作は静岡の芙蓉漢詩会の Y.H さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-392

  瀬戸歴史探訪        

奇巌礫島翠嵐纏   奇巌の礫島(つぶてじま) 翠嵐纏ひ 

湖畔巡遊動細漣   湖畔 巡遊すれば 細漣動く 

仰望峯頭尾那嶺   仰ぎ望めば 峯頭 尾那(おな)の嶺 

歌碑萬葉古風傳   歌碑の万葉 古風伝ふ 

          (下平声「一先」の押韻)


「瀬戸」: 地名
「礫島」: つぶて島。ダイダラボッチ(巨人)伝説で知られている。
「尾那(尾奈)」: 地名(古くは乎那)
「万葉歌碑」: 
 花散らふ
  この向つ峯の乎那の
 峯の洲につくまで君が
  齢もがも (東歌)





















 2018年の投稿詩 第393作は静岡の芙蓉漢詩会の M.M さん(静岡市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-393

  新茶祭想舊友        

南風新茗嫩芽芳   南風 新茗 嫩芽芳し 

一面豪u心氣康   一面 緑の丘 心気康らか 

富嶽遙望君墾地   富岳 遥かに望む 君の墾地 

紅顔追憶幾星霜   紅顔 追憶 幾星霜 

          (下平声「七陽」の押韻)

 同級生の友人、熱心に茶を造っていたが十年前に亡くなり息子が後を継いでいる。
 力不足ながら応援している。
 毎年五月のお茶の会を開いているときの詩です。























 2018年の投稿詩 第394作は静岡の芙蓉漢詩会の M.M さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-394

  詠大浦牛蒡        

複根大葉何魁偉   複根 大葉 何ぞ魁偉 

一兩歳年餘不枯   一両 歳年 余 枯れず 

斷首更栽別天地   断首 更(あらた)に栽う 別天地 

今春猶育正珍殊   今春 猶ほ育ち 正に珍殊 

          (上平声「七虞」の押韻)

太くて柔らかい大浦牛蒡は形が悪く太くて空洞のある牛蒡です。
とても強く首部は冬に枯れても春になると復活してきます。























 2018年の投稿詩 第395作は静岡の芙蓉漢詩会の M.M さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-395

  孤影 葉牡丹生遠地        

庭植先年葉牡丹   庭に植うは先年 葉牡丹 

發芽今歳石泥端   発芽 今歳 石泥の端 

遠地飛翔生命力   遠地 飛翔す 生命力 

影孤寂寂月中看   影は孤にして 寂寂 月中に看る 

          (上平声十四寒」の押韻)

 コンクリートの割れ目から生えた葉牡丹の種子が大きく花開いた生命力の強さに驚いた。






















 2018年の投稿詩 第396作は静岡の芙蓉漢詩会の M.M さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-396

  看小一孫之登下校        

振手先頭志氣昂   手を振り 先頭 志気昂く 

吾孫潑剌自成行   吾が孫溌剌 自ずから行を成す 

學終尚在託兒所   学び終へて 尚ほ在り 託児所 

背負書鞄已夕陽   背負う書鞄(ランドセル) 已に夕陽 

          (下平声「七陽」の押韻)

 父母が帰りが遅いので幼時から長時間保育され、小学校に上がっても帰りが七時頃になる孫達が科愛想だが、現在は仕方がないことなのだろうか?






















 2018年の投稿詩 第397作は静岡の芙蓉漢詩会の 恕庵 さん(富士宮市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-397

  偶成        

川上斜陽麗   川上 斜陽麗しく

泛舟垂釣遊   舟を泛べ 垂釣の遊

茜雲詩興足   茜雲 詩興足る

紅葉滿村秋   紅葉 満村の秋

          (下平声「十一尤」の押韻)

 のんびりと秋の景色に同化しているような時を楽しみたく思いにふけります。






















 2018年の投稿詩 第398作は静岡の芙蓉漢詩会の 恕庵 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-398

  雨中歩濱名湖辯天島海岸        

濤聲聽曲浦   濤声 曲浦に聴く

歩歩想漁歌   歩歩 漁歌を想ふ

細雨斜風裡   細雨 斜風の裡

潮香遍海阿   潮香 海阿に遍し

          (下平声五歌」の押韻)

 二つの詩とも、「斜」という文字が気になり、自分を重ね合わせて使用してみました。
 いや「斜」より元気をもらいつつ、一歩一歩前進と木喰さんが励ましているようです。























 2018年の投稿詩 第399作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋景 さん(浜松市)の作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-399

  夜坐感秋        

嫋嫋西風涼氣悠   嫋嫋 西風 涼気悠かなり

天晴銀漢若龍流   天晴れ 銀漢 竜の若く流れ

火星接近光輝赫   火星接近 光輝赫(あきら)か

宇宙茫洋浪漫秋   宇宙 茫洋 浪漫の秋

          (下平声「十一尤」の押韻)

 今年の初秋は火星がとても良くみえました。
 赤くて大きく輝いて、しばらくの間観察できました。























 2018年の投稿詩 第400作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋景 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-400

  奥山方廣寺        

林下鬱蒼斜径通   林下 鬱蒼として斜径通じ

三重層塔映霜楓   三重層塔 霜楓に映ず

穿雲杉木千年樹   雲を穿つ杉木 千年の樹

羅漢溫顔古梵宮   羅漢 温顔 古梵宮

          (上平声「一東」の押韻)

遠江八景の中の一つ
奥山方広寺の境内には五百の羅漢様が鎮座しておられ、そのお顔の中には、自分に似た顔が何処かにあると言われています。

「羅漢」: 修業し煩悩を脱して悟りを得た聖者
























 2018年の投稿詩 第401作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋景 さんの作品です。
 芙蓉漢詩会では10月27日に浜松市で合評会を開きました。

作品番号 2018-401

  那耶哥羅(ナイヤガラ)瀑布觀光        

遙遙北米地邊尋  遙遙 北米の地辺尋ぬ   

世界遊人大瀑潯  世界の遊人 大瀑の潯   

目眩肝膽驚愕極  目眩み 肝膽(かんたん) 驚愕の極み   

耳聾脳裏感銘深  耳聾し 脳裏 感銘深し   

街中飛沫霏霏散  街中 飛沫 霏霏として散じ   

湖下虹橋耀耀擒  湖下 虹橋 耀耀として擒する   

看夢五旬方覺醒  夢に看ること五旬 方に覚醒   

艱忘水勢與轟音  忘れ艱し 水勢と轟音と   

          (下平声「十二侵」の押韻)

カナダのナイアガラの滝を観光した時の詩です。
とにかく大迫力で、観ていると、吸い込まれそうで怖いくらいでした。

 





















 2018年の投稿詩 第402作は 莫亢 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-402

  信州葛温泉        

鬱律溪亭准戲樓   鬱律たる溪亭 戲楼に准ふれば

寒光還是似觀優   寒光 還た是れ 優を観るに似る

檐雪幕垂煌點滴   檐雪 幕のごとく垂れて 点滴 煌めき

天華慢舞泮龍頭   天華 慢舞して 龍頭に泮く

          (下平声「十一尤」の押韻)


「鬱律」: 煙が盛んに立ちのぼるさま
「溪亭」: 高瀬渓谷の葛温泉の外風呂のあずまや
「戲樓」: 表演雜技戲曲的樓台。
    C・蒲松齡『聊齋志異・鼠戲』:“毎於稠人中,出小木架,置肩上,儼如戲樓状。乃拍鼓板,唱古雜劇。”
「寒光」: 寒々とした景色。冬景色
「優」: 楽舞や諧謔を演じた芸人の総称
「檐」: 屋根のすその突き出した部分
「點滴」: しずくがしたたり落ちる
「天華」: 雪の別名
「慢舞」: ゆったり軽やかに舞う
「泮」: 溶ける
「龍頭」: 温泉が流れ出す蛇口



<感想>

 掲載が遅くなりすみません。

 莫亢さんのこの詩は、見たものを素直に描こうという意図で書かれたものでしょうね。
 後半の軒端の雪が溶けて流れる様、空に舞う雪が蛇口で溶ける様など、細かい描写が光ります。
 ただ、映像的には結局「雪」であり、二句とも同じようなものが並んでいるだけで変化が無く、作者がどこに面白さを見いだしたのかは言葉足らずの印象です。

 前半の温泉のあずまやを舞台に喩えたのは斬新で良いですね。
 その湯煙の中から役者が登場するかのような描き方で期待は十分なのですが、「幕が垂れた」先に見えるのは「雪の滴り」では、何に対して「似觀優」という気持が湧いたのか、逆に疑問になってきます。
 せっかくの発想が、どんどん後に行くにつれ尻すぼみになっていくようで、残念です。
 ここは、後半にもう一つ、目玉を置かないと詩が成り立たないと思いますが、いかがでしょう。



2019. 3.24                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第403作は 緑風 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-403

  冬日偶成        

小陽春夕北風疏   小陽春(こはるび)の夕べ 北風疏(とお)る

群雀中庭落葉虚   群雀 中庭 落ち葉虚し

帰咲残花斜日裏   帰り咲く 残花 斜日の裏

老翁曝背愛閑居   老翁 背を曝し 閑居を愛す

          (上平声「六魚」の押韻)



<感想>

 小春日の一日、穏やかな気持に浸っての感懐が表れていると思います。

 細かいところで見ていくと、起句の「北風」はなぜ「北」にしたのでしょね。
 これでは寒々とした景にしかなりませんので、全体の色調を暗くしてしまいます。「小春日」に吹く風はどんな風が良いか、その観点が必要ですね。

 同様に承句の「落葉虚」も逆の色彩ですので、韻字を替える方向ですね。

 転句の「咲」は漢語では「笑う」の意味ですので、「発」でないといけませんが、そもそも「残花」「帰咲」というのもおかしな言い方ですね。
 「散り残った花」と言わずに、例えば「黄花」「白花」と色を示しておくだけでも矛盾は解消します。
 ただ、ここは直前の「落葉」があるため、どうしても木の花を想定してしまいます。そうなると、該当するのは何の花になるのか、悩みませんか。
 そういう意味でも承句の下三字は検討が必要でしょうね。

 結句は良い句だと思います。



2019. 3.24                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第404作は 遙峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-404

  初冬偶成        

村園殘柿帶寒霜   村園の残柿 寒霜を帯び

流目南山新雪粧   目を流(うつ)す南山 新雪の粧ひ

酒甕菜菹収窖藏   酒甕 菜菹 窖蔵に収め

熅熅火閤K甜ク   熅熅たる火閤 黒甜のク

          (上平声「七陽」の押韻)



<解説>

 前半は在所の初冬の様子。
 後半は酒の好きな私が、冬支度を終えて、のんびりしている様子です。
 よく「内容に品がない・重みがない」ようなことを言われますが、日常の小さな風景に、人間味を加えた詩が自分らしさを出せる気がしています。

<感想>

 日常の小さな風景の中に詩情を見つけることは、漢詩に限らず、詩を創作する際には最も重要なことだと私は思っています。
 確かに、素晴らしい風景を見たり、涙が溢れるほど感動する場面に出会った時に詩を書けば、相応の詩が書けるかもしれません。しかし、そうした絶景のスポットに旅ができるのは、普段の生活を送っていたら一年に何回か、人生の一大事と言える感動の瞬間なんて大安売りはできません。
 「日々旅にして、旅を住処とする」ような生活は私たちにはできないわけです。
 では、一般人は詩を書くような感動も無いのか、というとそんなことはなくて、例えば、子どもの成長する姿、街角の小さな善意、ふと耳にした懐かしいメロディ、名前も忘れた庭の花のつつましやかな香り、そうした物事は些細なものですが、それこそが日々の感動です。
 毎日の生活の中に在る「小さな」感動を感知し、それを言葉やリズムやメロディで増幅して記録することがそもそも「詩」だと思います。
 遥峰さんの方向性は間違っていませんので、後はどれだけ、「自分の詩」になるかですね。

 さて、今回の詩は、懐かしい気持ちで読ませていただきました。
 子供の頃、私の家でも毎年、漬け物を大きな瓶に幾つも漬けては、空井戸の中に下ろして保存していました。
 私の住む地域は温暖でしたので、まだ冷蔵庫も無い時代、代わりに空井戸が使われて、夏はスイカ、秋から冬は漬け物がつるべの下でした。
 そんな五十年以上も昔の、父母や祖母の姿、作業を手伝っていた自分も含めた我が家の光景が蘇ってきました。
 きっと父親は、遥峰さんのこの詩のような気持ちで、ゆったりと昼寝をしていたのだろうなぁと思うと、何ともセンチな気分(死語か?)になれました。

 良い詩だと思います。
 少しだけ直すと、起句の「村園」は「山村」とし、承句の「南山」は「遙峰」「連峰」などとすると、画面がより大きくなると思います。



2019. 3.26                  by 桐山人
























 2018年の投稿詩 第405作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2018-405

  飼柴犬        

我曹老境淡愁心   我曹の老境 淡愁の心

熟考子孫恩愛深   熟考の子孫 恩愛 深し

饋贈狗児驚喜刻   饋贈さる狗児 驚喜の刻

再燃翁媼育成擒   再燃す翁媼 育成の擒

          (下平声「十二侵」の押韻)



<解説>

 日々 スポーツジムへ行ったり又野菜作り
 地域のボランティア活動とそれなりに忙しく?過しているつもりでしたが
 子や孫からみると「ボォ―と生きてんじゃねえよ」といったところか。

 9月末 生後1か月余りの柴犬を飼えと連れてきました。
 悪戦苦闘中、体力的にも、金銭的にも。

<感想>

 起句の「我曹」は「自分の仲間」、ここでは「(昔と違って)私の世代のじいさん、ばあさんは」という気持ちでしょうね。

 承句は「熟考」「恩愛深」とも、説明としても揶揄としても表現が中途半端ですね。
 「孝子慈孫熟考深」としてはどうですか。

 転句は「驚喜」なのは「翁媼」でしょうし、実際にプレゼントの柴犬を見た時は可愛くて大喜びしたと思いますが、前半の矜恃はどこに行ってしまったのか。
 もう少し、意地を見せて欲しいところです。

 ここは自分の感情は結句に収めて(結句は十分に味わいのある句です)、転句は柴犬の可愛い姿を表現しておくのが良いと思いますよ。



2019. 3.26                  by 桐山人