作品番号 2018-01
御題 語 応制詩
沈黙千金免畏嘲 沈黙千金 嘲を畏ることを免れ
夙箴駄辯老親教 夙に駄辯を箴めるは老親の教え
悪言出口疾於駟 悪言口より出れば 駟於りも疾く
舌禍空嘗難世交 舌禍空しく嘗めて 世交難し
「疾於駟」: 駟も舌に及ばず
作品番号 2018-02
泰平世
曙光封朔風 曙光 朔風を封じ
駘蕩有盃中 駘蕩として盃中に有り
將啓泰平世 将に啓かんとす泰平の世
一天瑞充 一天祥瑞充つ
昨年投稿した「啓泰平」の改作であります
作品番号 2018-03
醍醐山麓聞春聲 醍醐山麓 春声を聞く
東風解凍入春暉 東風凍れるを解き春暉に入る
處處梅芳鳥語飛 処処 梅芳しく鳥語は飛(たか)し
墨客扶筇吟吶吶 墨客筇を扶(たよ)りに 吟吶吶たり
人寰在背帯醺歸 人寰 背に在り醺を帯びて帰る
作品番号 2018-04
元朝有感
鷄鳴報曉又迎新 鶏鳴 暁を報じ 又 新を迎ふ
正氣堂堂八六春 正気 堂々 八六の春
我尚有愉詩詠書 我 尚愉しみ有り 詩・詠・書
順調成就禱天神 順調な成就を 天神に祷る
作品番号 2018-05
新年即事
戊戌迎春分外嘉 戊戌の春を迎へ 分外に嘉し
九旬獨喜野人家 九旬 獨り喜ぶ 野人の家
殘生天命無要世 残生の天命 世に要無く
才拙吟詩路更賒 才拙き詩を吟じ 路更に賒なり
平成三十年の新春を迎えました。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
作品番号 2018-06
迎春
九旬喜我又迎春 九旬を喜び我は又春を迎へ
一醉詩腸答吉辰 一酔 詩腸 吉辰に答ふ
白屋阿蒙身已老 白屋の阿蒙 身已に老い
千秋寒奥保天眞 千秋 寒奥 天真を保たん
「九旬」: 九十・才。
「詩腸」: 詩を作る心。
「白屋」: 貧しい家。
「阿蒙」: 昔どおりの阿呆。
「千秋」: 長い年月。
「寒奥」: 寒さと暑さ。
「保天真」: 自然のままで飾り気がない。
作品番号 2018-07
戊戌元旦
昇平春獨喜 昇平の春 獨リ喜ぶ
九秩覧佳辰 九秩の 佳辰を覧る
空戰君知否 空しき戦 君知るや否や
偸生餘此身 生を偸んだ 此の身を餘す
十五歳五カ月で海軍に入隊。敗戦という空しい戦であった。齢九十此の身を如何せんや。
作品番号 2018-08
追憶新生
劫中征少氣雄哉 劫中少くして征く 氣雄なる哉
人没戰禍焦土哀 戦禍に人は没し 焦土哀し
興復山河仍若昔 興復の山河 仍昔の若く
追懷往事賀正杯 往事を追懐し 賀正の杯
「劫中」: 戦時中。
「征少」: 年若くして海軍に入隊。
「氣雄哉」: 気力横溢。
「興復山河」: 国土の復興。
「往事」: 戦時中の事柄。
「賀正」: 正月の杯。
作品番号 2018-09
新年即事
戊戌新春萬物嘉 戊戌 新春 万物嘉(よろ)し
古稀加四惜年華 古稀に四を加えて 年華を惜む
我生有限詩無限 我が生 限り有り 詩は限り無し
覓句呻吟未足誇 句を覓めて呻吟するも 未だ誇るに足らず
「戊戌」: 干支のつちのえいぬ
「惜年華」: 時の過ぎるのを惜しむ
「呻吟」: 詩歌等を作るのに苦心しているさま
9
作品番号 2018-10
迎春(年頭所感 其一)
新正瑞氣帶春霞 新正の瑞気 春霞を帯び
日上地平山客譁 日 地平に上りて山客 譁し
踏破通宵連嶽裏 踏破す通宵 連嶽の裏
知身壯健一年嘉 身の壮健なるを知りて一年 嘉す
新しい年の正月の、めでたい雲の動く様子は、春の霞(かすみ)を帯びて、
太陽は地平線に上って、山に訪ねて来た人が騒がしくなりました。
山全体を夜通し歩き回る中で、
自分の身が元気で達者であることを知って、この一年を良しとするのでした。
私は病気で自宅療養中ですが、体調に気を付けて頑張っていきます。
作品番号 2018-11
迎春(年頭所感 其二)
迎春貧計俗人家 春を迎ふ貧計の俗人の家
快飮身溫醉更加 快飲 身 温かくして酔ひ更に加はる
東郭江邊新柳眼 東郭の江辺 新 柳眼
南軒籬畔早梅花 南軒の籬畔 早梅の花
朦朧畫景猶堪見 朦朧たる画景 猶 見るに堪へたり
寂寞窮途未足誇 寂寞たる窮途 未だ誇るに足らず
把筆年頭苦吟裏 筆を把りて年頭 苦吟の裏
將開鐡榦好容華 将に開かんとする鉄幹の好容華
春を迎える貧しい暮らし向きの普通の人の家では、
楽しく酒を飲んで身体が温かくなって酔いが更に加わっていました。
東の郊外の川の辺りでは、新たな柳の新芽があり、
家の南の軒の籬(まがき:竹や柴などを粗く編んで造った垣根)の畔(ほとり)では、早咲きの梅の花がありました。
朧(おぼろ)げに見える絵の中の目に触れる自然界の眺めは、それでも見る値打ちがありますが、
寂しくて静かな苦しい境遇は、未だ誇るのに十分では無かったのです。
筆を取って年の初めに苦心して漢詩を作る中で、
老いた梅の幹の美しい顔形が、今まさに開こうとしていました。
苦心と苦境の中でも、良い漢詩を作ることが出来たら良いなという思いで詠みました。
今年も体調に気を付けて頑張っていきます。
作品番号 2018-12
新年所懷
鐘聲百八淨心塵 鐘声 百八 心塵を浄め
松竹旗旌歳此新 松竹 旗旌 歳此に新まる
外患内憂波不穩 外患 内憂 波穏やかならず
偏祈天地太平春 偏に天地に祈らん 太平の春
新年の作です。
今年も頑張りますので、よろしくお願い致します
「春空」から「翠空」に改めましたので、よろしくお願い致します
作品番号 2018-13
五絶・迎接戊戌年攪牙
戌歳六巡加, 戌歳 六巡して加ふ,
馬齡攪牙。 馬齡の假牙(義歯)を揩キを。
和平堪諷詠, 和平(平和)は諷詠するに堪へれば,
終老扮詩家。 老いを終(すご)すに詩家の扮(ふり)。
作品番号 2018-14
五絶・歳朝問天爺
何敢迎春賀, 何んぞ敢へて春を迎へて賀(いは)はんや,
年年身更斜。 年年 身は更に斜めなる を。
餘生還幾許? 餘生また幾許ぞ?
把酒問天爺。 酒を把(と)り天爺(てん)に問ふ。
「天爺」: 天を指す。
作品番号 2018-15
七絶・迎接戊戌年美醉
曙光如扇染紅霞, 曙光 扇の如く紅霞を染め,
夢醒迎春喜在家。 夢醒めて春を迎へ家に在るを喜ぶ。
賀正當然傾祝酒, 賀正 當然 祝酒を傾ければ,
老妻也醉笑如花。 老妻も醉ひて笑ひて花の如し。
作品番号 2018-16
五律・迎春老妻吟句好
夫婦迎春樂, 夫婦 春を迎えて樂しむは,
朝餐椒酒嘉。 朝餐の椒酒の嘉きなり。
温顔擅金盞, 温顔 金盞を擅(ほしいまま)にし,
笑貌帶紅霞。 笑貌 紅霞を帶ぶ。
卻老天仙喜, 老いを却(しりぞ)けて天仙喜び,
遊魂詩興加。 魂を遊ばすに詩興加ふ。
玉唇吟好句, 玉唇 好句を吟じ,
野叟眼前花。 野叟の眼前に花あり。
作品番号 2018-17
七律・一年詩計生酒興
戌歳三元酒興加, 戌歳の三元 酒興加はり,
一年詩計發頂芽。 一年の詩計 頂芽を發す(芽生ゆ)。
青春吟句競鳴蛙。 青春(はる)には句を吟じて鳴蛙と競ひ,
朱夏追涼食醉蝦。 朱夏(なつ)には涼を追って醉蝦を食はん。
碧落彩雲收落日, 碧落の彩雲 落日を收めれば,
金秋韻事友寒鴉。 金秋の韻事 寒鴉を友とせん。
玄冬温故試新賦, 玄冬(ふゆ)には故(ふる)きを温めて新賦を試み,
期待硯池開墨花。 期待せん 硯池に墨花の開くを。
「頂芽」: 発芽した芽の先。
「醉蝦」: 酒に浸した海老。
作品番号 2018-18
七絶・迎接戊戌年偶懷
去年到處警鐘鳴, 去年は到る處で警鐘鳴り,
恐嚇金鷄失曉聲。 金鷄を恐嚇(おど)して曉聲を失はしむ。
今歳有誰爲鐡狗, 今歳 誰かありて鐡の狗となり,
眼光炯炯守和平? 眼光炯炯と和平(平和)を守らんや?
作品番号 2018-19
七絶・迎接狗歳偶成
狗吠不驚天太康, 狗の吠ゆるに驚かず 天は太康,
贅翁賀正喜金觴。 贅翁 賀正に金觴を喜ぶ。
樂觀終老守愚好, 樂觀して老いを終(すご)すに愚を守るが好く,
不愛警鐘鳴醉郷。 愛さず 警鐘の醉郷に鳴るは。
作品番号 2018-20
迎春樂・迎春吟詠買沈默
千門萬戸迎春樂, 千門萬戸に春を迎ふる樂しみあり,
傾椒酒、祝龜鶴。 椒酒を傾け、龜鶴(長寿)を祝ふ。
子孫來、兩老如琴瑟, 子と孫と來たれば、兩老(翁嫗)琴瑟の如く,
擅笑臉、談開闊。 笑臉(えがほ)を擅(ほしいまま)にし、談じて開闊たり。
○ ○
乘醉興、贅翁試作, 醉興に乘り、贅翁試作す,
詩一首、吟佯仙客。 詩の一首、吟じて仙客の佯(ふり)をす。
眼底金童玉女, 眼底(眼の前)の金童玉女(孫ら),
淺哂而沈默。 淺哂(微笑)して沈默す。
作品番号 2018-21
玉女迎春慢・吟競鴻妻啜殘杯
蝸舎迎春, 蝸舎に春を迎へ,
鴻妻喜、小飲歳朝椒酒。 鴻妻は喜ぶ、歳朝の椒酒を小飲するを。
共祝清貧鶴壽, 共に清貧の鶴壽を祝ひ,
笑借紅顏酬侑。 笑って紅顏を借りて酬侑(杯をやりとりす)。
卮言出口, 卮言(とりとめのない言葉)口を出でて,
轉起興、試才八斗。 轉た興を起こし、試す 才の八斗なるを。
花容七歩, 花容 七歩すれば,
俳句乍成, 俳句 乍ち成り,
風趣靈秀。 風趣 靈秀なり。
○ ○
詩翁蹈矩循規, 詩翁は矩を蹈み規に循(したが)ひ,
推敲不斷, 推敲すること不斷にして,
未及圓就。 未だ圓就(完成)するに及ばず。
淺慮思前想後, 淺慮 前を思ひ後を想ひ,
羨慕得心應手。 羨慕(うらや)む 得たる心に手の應ずるを。
繆斯鼻哂, 繆斯(ミューズ)鼻で哂(わら)ひ,
敗筆似、寶刀生銹。 敗筆は似たり、寶刀の銹を生ずるに。
婦唱夫隨, 婦唱夫隨,
更啜玉杯紅友。 更に啜る 玉杯の紅友(酒)。
(語釋)
「蹈矩循規」: 決まりを遵守すること。
「思前想後」: 原因と結果をめぐって思いをめぐらせること。
「得心應手」: 思い通りに手が動くこと。順調に事が進むこと。
作品番号 2018-22
新春戯詩
長生春米壽 長生 春には米寿
壽ト省星霜 寿トらかにして、星霜省みんとすれども
霜貌多忘却 霜貌 忘却多く
却懷些事長 却って些事を懐かしむこと長し
米寿、記憶力減退して、来し方を省みんとしても系統だっては想い出せない。
ただ切れ切れに、ちょっとしたことを思いめぐらしては笑い、とめどもない。
作品番号 2018-23
新年即事 憶核禁止條約(一)
先年快事平和賞 先年の快事 平和賞
自發集團情熱波 自発集団の情熱波だち
廢絶條文國連決 廃絶条文 国連決す
伊誰躊躇奈邦家 躊躇するは誰ぞ、 奈んと邦家か
作品番号 2018-24
新年即事 憶核禁止條約(二)
招呼禁止核兵器 招呼す 禁止核兵器
自發熱誠波國連 自発熱誠国連に波だつ
參畫百餘條約實 参画百余条約実るも
伊誰別意奮空拳 伊(こ)れ誰 意を別にし空拳奮ふは
作品番号 2018-25
山陰路
雪嶺海隅恩惠加 雪嶺と海隅 恩恵加らん
湯池和暢上煙霞 湯池は和暢にして上る煙霞
昏明刻命夢千代 昏明 刻む命 夢千代
問訊櫻桃巡百花 問訊す 桜桃 百花を巡らさんか
山陰の山々は雪に覆われ、曲がりくねる海沿いをはしり恵み多い旅路でした。
温泉地はのどかな風情で湯けむりが霞んでいました。
映画にもなった夢千代は、一日一日命を刻むなかで、桜は今年も咲きますかと、か細い声で,生きながらえんと、念いを託していました。
原爆を受けた乙女の平和への願いでもあった。
「海隅」: 海が陸地へ入りこんだ処
「湯地」: 熱湯が沸きたつ池
「和暢」: のどかな地
「煙霞」: もやと霞、山村のすぐれた景色
「昏明」: 暮れと明け
「問訊」: 問い尋ねる
作品番号 2018-26
求新清流
揚清激濁至仁忱 揚清 激濁 至仁の忱
錦上添花憲法心 錦上 花を添えん 憲法の心
天命革新情意韻 天命の革新 情意の韻
黎明流麗志呻吟 黎明 流麗なる志の呻吟
「激濁 揚清」: 濁流を流し去り、清波をあげる−悪を除き善を高揚する
「錦上 添花」: 美しい上にさらに美しさを加え−よりいっそう完全なものに
「流麗」: 詩文がうつくしい
作品番号 2018-27
新年書感
朝旭年頭吉兆時 朝旭の年頭 吉兆の時
瓶梅香散雪花披 瓶梅 香を散じて雪花 披く
親朋親族僖康健 親朋 親族の康健を僖び
藹藹嘉筵似一詩 藹藹たる嘉筵 一詩を似す
作品番号 2018-28
新年偶感
古稀既過二周春 古稀 既に過ぐ二周春
霜鬢禿頭然潔身 霜鬢 禿頭 然れども潔身
月月年年時節改 月月 年年 時節 改まるも
殘生不遴保天眞 残生 遴らず天真を保たん
作品番号 2018-29
歳朝言志
新春自壽雅歌謳 新春 自ら寿し雅歌を謳う
瑞日陽光景物悠 瑞日 陽光 景物 悠なり
不諍不貪希健勝 諍ず貪らず希うは健勝
一竿風月一詩囚 一竿風月 一詩囚
作品番号 2018-30
新年即事
歳朝無恙一杯茶 歳朝 恙無く一杯の茶
瑞氣中庭玉雪葩 瑞気の中庭 玉雪の葩
老健清貧閑日月 老健 清貧 閑日月
安心立命向人誇 安心立命 人に向って誇らん
「玉雪葩」: 梅の花
「清貧」: 私欲なく暮らす
「安心立命」: 心安らかにして悩み無し