2016年の投稿詩 第211作は芙蓉漢詩会の 蘭君 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-211

  勸農        

濺濺新水漲横陂   濺々として新水 横陂に漲(みなぎ)り

地味膏腴雨霽時   地味 膏腴(こうゆ) 雨霽るる時

布穀野原啼不歇   布穀(ふこく) 野原に啼いて歇まず

田家農序鳥先知   田家 農序 鳥先づ知る

          (上平声「四支」の押韻)

「濺々」: 水がさらさらと流れるさま
「膏腴」: 土地が肥沃である
「布穀」: ふふどり、郭公
「農序」: 農の仕事 農事の順序



<感想>

 全体の初夏の趣が出ていますので、起句の「新水」は「白水」「青水」と色を出してはどうでしょう。

 承句も「雨霽」よりも「天霽」とした方が広がりが出るように思います。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第212作は芙蓉漢詩会の 蘭君 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-212

  晴耕雨讀        

耘圃耔蔬山谷間   圃(はたけ)を耘(くさか)り 蔬(やさい)を耔(つちか)う 山谷の間

鳴雷急雨抛犂還   鳴雷 急雨 犂(すき)を抛(なげう)ちて還る

破窓掃几繙詩巻   破窓 几(つくえ)を掃ひ 詩巻を繙く

偶賜田夫半日閑   偶たま賜ふ 田夫 半日の閑

          (上平声「十五刪」の押韻)



<感想>

 承句の「抛犂」という慌ただしさから転句の閑かさへの展開がやや急です。
 ややくどいかもしれませんが、「破窓」を「帰来(帰り来たれば)」とした方が滑稽味が出ると思います。

 結句の「田夫」は「繙書卷」と違和感がありますが、そこが面白み。その関係での「破窓」かもしれませんが、あまり狙い過ぎないほうが良いように思います。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第213作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-213

  季冬早曉        

弦月金星拂曉瓏   弦月 金星 払暁に瓏たり

相攜騰上小寒穹   相携へて騰上 小寒の穹

人寰些末爭何事   人寰 些末 何事か争はん

混沌安寧塵界中   混沌 安寧 塵界の中 

          (上平声「一東」の押韻)



<解説>

 東空にならんで冴えわたる月と星、それにしても世界中の争いの絶えないことを憂える


<感想>

 よく分かる詩ですね。  一点、結句の「混沌」がここに残ると、転句の繰り返しになります。
 作者の願いは「安寧」だと思いますので、結句は「僥冀(ぎょうき)」「将冀(まさにこひねがふ)」とすると、収まるでしょう。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第214作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-214

  親朋克服癌        

日進杏林施術英   日進の杏林 施術英たり

年餘藥餌効能盈   年余の薬餌 効能盈つ

得堪朋友雙眸涙   堪へ得たり 朋友 双眸に涙

快癒賀筵樽酒傾   快癒の賀筵 樽酒傾く

          (下平声「八庚」の押韻)



<解説>

 丁度一年の入退院、ゴルフ、囲碁、麻雀と遊び仲間の復活がとても嬉しい

<感想>

 題名ですが、「癌」だけでなく「癌疾」と二字にした方がわかりやすいでしょう。

 承句の「効能」は現代中国語でも通じますが本来は和語ですので、「年余薬効已充盈」でどうでしょう。

 転句の「得堪」はどうも練れていませんね。「蘇息(息をふきかえしてホッとする」という言葉がありますので、「旧朋蘇息」で。

 結句は「樽」は、病み上がりの「賀筵」では飲み過ぎでしょう。「芳酒」くらいが無難です。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第215作は芙蓉漢詩会の T.E さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-215

  今冬異變 其一        

暖冬異變小寒光   暖冬 異変 小寒の光

梅信東風違季装   梅信 東風 季を違へて装ふ

無雪富峰姿似夏   雪無き富峰 姿 夏に似て

麗容白妙待明粧   麗容の白妙 明粧を待つ

          (下平声「七陽」の押韻)



<感想>

 承句の「違季装」と「姿似夏」がどちらも「異変」を言っていて、重複感があります。具体的な異変の景が多数出てくるのは良いのですが。
 直すとすると承句の方がよいかと思いますので、下三字を「渡野香」としてはどうでしょう。「渡」を検討すると、いろいろな変化が生まれると思います。

 結句は「白妙」と「明粧」が同じですね。更に言えば、「麗容」も似ていますね。
 転句を「無雪山巓」、結句を「麗容富岳」でしょうか。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第216作は芙蓉漢詩会の T.E さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-216

  今冬異變 其二        

凍雨冥濛迎大寒   凍雨 冥濛として大寒を迎ふ

暖風何處朔風闌   暖風何処にか 朔風闌たり

曉晴富嶽白銀R   暁晴の富岳 白銀のRき

景勝此雄雲外看   景勝 此に雄たり 雲外の看

          (上平声「十四寒」の押韻)



<感想>

 全体にどこが「異変」なのか、分かりません。

 承句の「暖風何処」は「暖風がどこにも無い」ということなので、春ならば分かりますが、「大寒」ならば当然という気がします。

 ここの対比はやめた方が良いですね。「夜来窓外」と「朔風」を修飾する形で検討してはどうでしょう。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第217作は芙蓉漢詩会の 報昇 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-217

  訪小諸懷古園        

朝雨蕭蕭濕古門   朝雨蕭々 古門を湿ほす

小諸義塾跡猶存   小諸義塾 跡猶ほ存す

哀調草笛櫻花散   哀調たる草笛 桜花散り

惜別歌碑惹旅魂   惜別の歌碑 旅魂を惹く

          (上平声「十三元」の押韻)



<解説>

 惜別の歌
  たかどの  島崎藤村
 とほきわかれに たへかねて
 このたかどのに のぼるかな
 かなしむなかれ わがあねよ
 たびのころもを ととのへよ

 昭和十八年に学徒出陣が始まり、中央大学の学生藤江英輔が別れの歌として作曲し、歌詞「わが姉よ」を「わが友よ」に代えて詠われた。

<感想>

 転句の「調」は名詞用法で仄声だと思いますので、「音」にしておけば収まります。
情感のあふれる詩だと思います。




2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第218作は芙蓉漢詩会の 報昇 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-218

  沖繩海域航空戰記        

夜將攻撃誓回天   夜 将に攻撃せんとし 回天を誓ふ

投下艨艟必殺拳   投下す 艨艟(もうどう)に必殺の拳 

被彈吾機猶疾走   被弾す吾が機 猶ほ 疾走し

猛然艦砲脱硝煙   猛然たる艦砲の硝煙を脱す

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 当時、最新鋭重爆撃機(飛龍)に魚雷を搭載し、九州より夜間の海上約三時間飛行し、電波高度計を使用し海上四十メートル以下に降下して雷撃をした。
 小生は電波探知機を操作して、夜、攻撃目標や島々の映像を補足し、航法員の補助をした。


<感想>

 結句は「艦砲」が「硝煙を脱した」と読みます。
 また、承句からの流れからも、ここで「艦砲」が欲しいですね。

  艦砲猛然飛弾雨(飛弾の雨)
  吾機尚疾脱硝煙




2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第219作は芙蓉漢詩会の S.G さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-219

  早春雨後        

殘寒小徑一天晴   残寒 小径 一天晴る

詩客尋花吟屐輕   詩客 花を尋ぬ 吟屐軽し

朝雨洗紅香只滿   朝雨 紅を洗ひ 香只だ満つ

綿蠻黄鳥停梭鳴   綿蛮たる黄鳥 梭を停めて鳴く

          (下平声「八庚」の押韻)



<感想>

 起句の「殘寒」ですが、詩の中のどこに「寒さ」が出ているのか、悩みます。題名のまま「早春」で。

「小徑」を歩いていて「一天晴」では広さに違和感があります。「小徑」よりも「野徑」「校野」としてはどうか。

 結句は「梭に停まりて」と音読します。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第220作は芙蓉漢詩会の S.G さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-220

  秋日訪友        

秋晴十里稻如雲   秋晴十里 稲 雲の如し

訪友村莊散雀群   友を訪ぬ 村荘 雀群散ず

啜茗圍棋塵外境   茗を啜り棋を囲む 塵外の境

優遊談笑喜欣欣   優遊談笑 喜び欣欣たり

          (上平声「十二文」の押韻)



<感想>

 承句は上四字と下三字がつながらないですね。読み方も通常で読めば「雀群を散ず」となりますので、友を訪ねた作者が「雀群」を散じさせたのか、と思います。
 どんな言葉を入れても良いでしょうが、例えば「菊満薫」など。

 転句は良いですね。
 結句は「喜」と「欣欣」が同じですので、「喜びがよろこんだ」と妙な話です。
 「喜」を「意」とすれば良いでしょう。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第221作は芙蓉漢詩会の M.S さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-221

  謹賀新年        

平成貳八歳朝煌   平成弐八 歳朝の煌

雙立門松放瑞光   双立す門松 瑞光を放つ

社寺乾坤風物改   社寺乾坤 風物改まり

春回街巷太平慶   春は回り 街巷太平の慶

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 本年の元旦、初日の煌き門松がめでたい兆しの光を放ち、神社仏閣の天地が改まり街巷の新年は太平を慶ぶ。

<感想>

 起句は「二八」よりも「廿八」、あるいは「四七」で。

 承句は「門松」が光を放つわけではないので、「帯瑞光」とします。

 転句は「乾坤」では「社寺」とのバランスが悪いので、「衆人」が良いでしょう。

 結句は「乾坤」を「衆人」に変えると、「街巷」ですと同じような大きさになります。
 結句ですので、ここは大きく構えて、「春回天下太平慶」でどうですか。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第222作は芙蓉漢詩会の 修玲 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-222

  聽夜雨        

春愁如水渺相思   春愁 水の如く 相思緲たり

空老千紅不可追   空しく老ゆ千紅 追ふべからず

坐雨墜歡都似夢   雨に坐すれば墜歓 都て夢に似たり

無情一夜尚天涯   無情の一夜 尚 天涯

          (上平声「四支」の押韻)



<感想>

 起句の「思」、結句の「情」がしっくりきません。
 更に言えば、「墜歓」「似夢」も心情語で、「聴夜雨」という題はどこなのか悩みますね。
「渺相思」は「思」を動詞としなくてはいけませんので、「渺として相思ふ」となります。よく分からないですね。「夜窓帷」と作者の居場所を示してはどうでしょう。





2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第223作は芙蓉漢詩会の 修玲 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-223

  賞十三夜月        

遙天縹渺坐高樓   遥天 縹渺 高楼に坐す

照出繼華千里幽   照らし出だす継華 千里幽なり

淡雅凄涼詩可賦   淡 凄涼 詩 賦すべし

賞心無限解人愁   賞心 限り無く 人 愁ひを解く

          (下平声「十一尤」の押韻)



<感想>

 起句の「遙天」は「縹渺」とかぶるので、単に「秋天」の方が良いですね。

 転句は「千里」を受けてですと「淡雅」よりも「清雅」、「淡雅」とするなら承句を「照出金盤十(百)里幽」でしょう。

 結句は読み下すなら「人の愁ひを解く」ですが、どこから「愁」が出てきたのか、ここの気持を転句までで工夫して表したのに、またまとめてきたら、句自体が冗舌に感じます。
 言いたいことは「淡雅凄涼」で尽くしたとして、結句で再度叙景に戻るべきですね。
 音(笛とか鐘声)、風などを出してみてはどうでしょうね。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第224作は芙蓉漢詩会の S.T さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-224

  初雪邀友        

寒空一色到天明   寒空一色 天明に到る

邀友草堂無限情   友を邀ふる草堂 無限の情

初雪門前方掃出   初雪の門前 方に掃かんと出づれば

玲瓏玉樹六花C   玲瓏玉樹 六花清し

          (下平声「八庚」の押韻)



<感想>

 承句の「無限情」は唐突で、読者がついていけません。
「寂寂草堂」とすると「無限情」も多少は分かるかもしれません。

 転句に「邀友」を持ってきて、「邀友門前方掃出(方に掃き出でんとせば)」で、「雪」は結句で十分に伝わりますので削除しましょう。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第225作は芙蓉漢詩会の S.T さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-225

  到梅信        

東風竹外聽黄鸝   東風竹外 黄鸝を聴く

弱柳香風特地吹   弱柳香風 特地に吹く

行樂賞心梅信到   行楽賞心 梅信到る

吟情脈脈得新詩   吟情脈々 新詩を得たり

          (上平声「四支」の押韻)



<感想>

 全体として、上二字が付け加えた言葉になっています。
 起句は「東風」がどうしたのか、承句も「弱柳」が何なのか、転句の「行楽」や「吟情」は下の言葉を言い換えたもの、いっそ上二字を削って五言絶句にした方が良いくらいです。
 七言で行くならば、句としてのまとまりや無駄な言葉を削るつもりで検討しましょう。

 起句と承句で「風」が重複していますので、「東窓」「東園」でどうですか。
 その「香風」は、もう梅を感じさせてしまいますので、ただの風にした方が良く、「柔風」「条風」で。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第226作は芙蓉漢詩会の 洋靖 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-226

  秋日訪友        

天高百舌報秋聲   天高く 百舌 秋声を報ず

訪友西郊吟屐輕   友を訪ねて西郊 吟屐軽し

久闊傾杯喜無恙   久闊 杯を傾け 喜び恙が無く

歡談不盡忘歸程   歓談尽きず 帰程忘れる

          (下平声「八庚」の押韻)



<解説>

 秋の良き日に久しく友達と逢って杯を傾け語り合った。

<感想>

 承句は「吟」が早いですね。
 「訪友」ですと、まだ友の所に着いていないうちから楽しんでいる形になります。
一緒に歩いたということで「催友」「携友」「約友」とすれば良いでしょう。

 転句の読み下しは「恙無きを喜び」としましょう。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第227作は芙蓉漢詩会の 洋靖 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-227

  梅林聽鶯聲        

春晴散策訪寒英   春晴 散策 寒英を訪ぬ

花發嫣然馥郁盈   花 発して 嫣然 馥郁 盈つ

鶯語嬌聲無影囀   鴬語 嬌声 影無く囀る

風情有味洗心情   風情 味有り 心情を洗ふ

          (下平声「八庚」の押韻)



<解説>

 梅林を訪ねてきれいな鶯の声を聞き 風情があって心が洗われた。

<感想>

 起句の「訪寒英」は花を探したということでしたら、承句へつながりすぎる印象です。
 「春林散策曉風清」のように場所をしめすだけにしておくのが無難です。

 承句の「嫣」と転句の「嬌」がどちらも女性の美しさを表す言葉で単調さを感じます。
 転句の方を「處處鶯聲無影轉」でしょうか。



2016. 8.10                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第228作は芙蓉漢詩会の 常春 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-228

  明石大橋回廊        

脚下卅尋波倒瀾   脚下卅尋(そうじん) 波 倒瀾

眼前六里索双伸   眼前六里 索 双び伸ぶ

回廊高在摩橋背   回廊高きに在り 橋背に摩(ちか)し

搖動時時風是因   揺動時時 風 是れ因ならん

          (上平声「十一真」の押韻)



<解説>

 明石大橋は中央支間約2キロ、全長4キロの吊り橋。
 阪神淡路大震災で、長さが1メートル増えたという。

 プロムナードは高さ47メートルの強化ガラスの床に丸木を渡し波涛をのぞき込む工夫も面白い。
 そして、淡路島まで一直線の橋背と橋索。

























 2016年の投稿詩 第229作は芙蓉漢詩会の 常春 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-229

  禮文島        

植生清楚氣高原   植生 清楚 気は高原

海猪岩礁波浪鞭   海猪(トド)の岩礁 波浪鞭うつ

極北遙望樺太影   極北遥かに望む 樺太の影

豪商曾泊北前船   豪商 曾て泊す 北前船

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 7月稚内、礼文島、利尻島ツアーに参加した。
 高山植物のような清楚な草花。島北辺、銭屋五兵衛経営の地であった。

























 2016年の投稿詩 第230作は芙蓉漢詩会の 常春 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-230

  贊五三餻        

黄菓暄騰鼈甲袍   黄菓は暄騰(ふっくら) 鼈甲の袍(ころも)

一口甜芳六腑濤   一口の甜芳 六腑に涛す

異國風情工咀嚼   異国の風情 工みに咀嚼す

崎陽名産五三餻   埼陽の名産 五三の餻(こう)

          (下平声「四豪」の押韻)



<解説>

 長崎の友人より、銘菓「五三焼きカステラ」を頂戴した。
 卵黄、卵白の比が五三であるとのことか。

 美麗、醇芳、そして美味。
 礼状に詩を添えた。

























 2016年の投稿詩 第231作は芙蓉漢詩会の 緑楓林 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-231

  秋宵坐月        

滿天気坐深宵   満天の気 深宵に坐す

透徹新寒一醉消   透徹せる新寒 一酔消す

零露無聲惟有月   零露 声無く 惟だ月有り

清光如水滴芭蕉   清光 水の如く 芭蕉に滴たる

          (下平声「二蕭」の押韻)



<解説>

 秋夜、月がきれいなひと時、近在の芭蕉がある寺庭を想像しながら作詩してみました。

<感想>

 全体に良いですが、転句の「露」が「無聲」はしっくりしません。
「籬落無聲」でしょう。
 下の「有」と対応させて「無」を入れたと思いますが、話としては「絶聲」が良いですね。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第232作は芙蓉漢詩会の 緑楓林 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-232

  望富士        

江蒼風勁一州通   江蒼く 風勁 一州通じ

屹立靈峰萬古同   屹立する霊峰 万古に同じ

遼繞松林三百里   遼繞する松林 三百里

山巓白雪半天中   山巓 白雪 半天の中

          (上平声「一東」の押韻)



<解説>

 浜名湖西岸より富士山が大変きれいに見えます。

<感想>

こちらも良いですが、五字目に数詞が並んだのが残念です。
承句の「萬古」を「今古」とすれば違和感が無くなります。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第233作は芙蓉漢詩会の Y.H さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-233

  玩偶(ユルキャラ)家康君        

濱松去歳話題昌   浜松 去歳 話題昌んなり

雪辱輸贏意氣昂   輸贏雪辱し 意気昂る

出世大名天下一   出世大名天下一

自誇披露喜呈祥   自ら誇り披露す 祥を呈するを喜ぶ

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 昨年の「ゆるキャラグランプリ」に、出世大名家康くんが、グランプリを獲得した。

<感想>

 結句の「自誇」を「神君」とした方が滑稽さが出るでしょう。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第234作は芙蓉漢詩会の Y.H さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-234

  井伊直虎        

天險擁山周匝長   天険 山を擁して周匝(しゅうそう)して長し

奥濱古刹浴輝光   奥浜の古刹 輝光浴び

來年放映女城主   来年放映 女城主

激動生涯名獨芳   激動の生涯 名 独り芳し

          (下平声「七陽」の押韻)

「奥浜」:奥浜名湖 「放映」:大河ドラマ

<解説>

 来年のNHK大河ドラマに「おんな城主 直虎」が決定した。

<感想>

 こちらの詩もまとまっていますね。

 結句の「獨」だけが意図が不明ですので、「名節」「名望」とするのが良いですね。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第235作は芙蓉漢詩会の K.F さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-235

  遊白絲瀑泉        

萬縷如絲飛瀑邊   万縷 糸の如き飛瀑の辺

虹生五彩映苔鮮   虹は生じ 五彩 苔に映じて鮮やかなり

玲瓏富嶽聳天外   玲瓏たる富岳 天外に聳ゆ

楓錦秋光涵碧漣   楓錦 秋光 碧漣に涵す

          (下平声「一先」の押韻)



<感想>

 K.Fさんは中学1年生、次に掲載したM.Fさんの弟さんです。

 よくまとめった詩になっていると思います。
これからが楽しみですね。

 起句の「萬縷」は滝の水を「糸」に例えたもので正確に書けば「如萬縷」、「如絲」も全く同じ表現ですので、ここは勿体ないですね。
「落(白)水如絲」「萬縷水絲」としてはどうでしょう。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第236作は芙蓉漢詩会の M.F さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-236

  遊黄金崎        

萬里銀波大海平   万里の銀波 大海平らかに

仰看蓮嶽白雲   仰ぎ看る蓮岳 白雲横たふ

奇岩幾十崔嵬影   奇岩幾十 崔嵬の影

風爽垂綸心自C   風爽やかに綸を垂れ 心自ら清し

          (下平声「八庚」の押韻)



<感想>

 お姉さんのM.Fさんは高校二年生、姉弟での作詩は素晴らしいですね。

 よく整理されている詩だと思います。

 強いて言えば、起句の平面的な広がりから見ると、承句の「仰看」を「遙望」とした方が統一感が出るでしょうね。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第237作は芙蓉漢詩会の 恕庵 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-237

  偶成        

山居幽徑落花痕   山居の幽径 落花の痕

若剪拷A雙燕翻   緑陰剪るが若く 双燕翻り

猝猝三春如夢去   猝々(そつそつ)たり三春 夢の如く去る

不知紫筍迸籬根   知らず紫筍の籬の根に迸るを

          (上平声「十三元」の押韻)



<解説>

 見ているようで見ていない。気づいているようで気づかない。
 そんな生活のひとこまでしょうか。

<感想>

 承句の「若」と「如」はどちらも比喩の言葉、漢字が違うから同字重出ではありませんが、絶句の中に二カ所比喩が入るのはどうでしょうか。
 承句を「若剪」の比喩は狙い所かもしれませんが、「若」をやめて「一剪」とすると重複感が消えます。

 転句の「如夢」は比喩で良いですが、「夢」が良いかどうか、他の言葉を入れてみる(例えば「如水」とか)など、検討するのも楽しいでしょうね。



2016. 8.14                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第238作は芙蓉漢詩会の 洋春 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-238

  冬夜偶成        

枯木風聲一草堂   枯木 風声 一草堂

新詩欲作坐燈光   新詩 作らんと欲して灯光に坐す

推敲自誦三更近   推敲 自ら誦せば 三更近し 

霜氣沈沈夜正長   霜気 沈々 夜 正に長し

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 詩を作ろうとして机に向いました。
 外は風が強そうです。
 何とか詩が出来て、声に出して読んでみました。
 寒さが身にしみて夜の長さを感じました。

<感想>

 全体にまとまった詩になっていると思います。

 承句の「作」を「賦」とすると、漢詩らしくなりますね。



2016. 8.15                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第239作は芙蓉漢詩会の 洋景 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-239

  梅林聽鶯聲        

四邊馥郁一村清   四辺馥郁 一村清し

競美紅英又素英   美を競ふ 紅英又素英

時聽惺惺無影度   時に聴く惺々 影無く度る

春魁入夢好詩情   春に魁(さきが)け 夢に入る好詩情

          (下平声「八庚」の押韻)


「惺惺」: 鶯の鳴き声の形容

<解説>

 お花が大好きですので「花三題」書いてみました。

<感想>

 結句の「春魁」は「春に魁け」とは読めず、「春の魁」となります。

 「入夢」は陳腐ですので、「好境」とする方が良いですね。





2016. 8.15                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第2340作は芙蓉漢詩会の 洋景 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-240

  吉野觀櫻        

客袖蕭蕭雨   客袖 蕭々の雨

花陰曲曲程   花陰 曲々の程(みちのり)

遠望紅雪緲   遠く望む紅雪渺かにして

近看傘英明   近く看る傘英明らかなり

靜御前歌舞   静御前の歌舞

義經公戰聲   義経公の 戦声

史傳遙憶處   史伝 遥かに憶ふ処 

爛漫古都櫻   爛漫 古都の桜

          (下平声「八庚」の押韻)


「客袖」: 客衣
「傘英」: 傘の花
「戦声」: ときの声


<感想>

 律詩にも随分慣れてこられたようですね。

 首聯は良い聯です。首聯が対句になる形もよく使われます。

 頷聯は「遠望」と「近看」が単調で、対句が生きていません。
「遙連紅雪緲 近展傘英明」というような変化が欲しいです。

 頸聯は静御前を「静女」として、「静女悲歌舞 判官敢戦聲」としてはどうでしょう。

 尾聯の上句は「史傅」が前の聯を受けてのものですが、どうもくどい感じです。
「眼前懷昔久」
 下句は「古都」よりも吉野ならば「古宮」が良いでしょうね。




2016. 8.15                  by 桐山人
























 2016年の投稿詩 第241作は芙蓉漢詩会の 洋景 さんの作品です。
 2016年5月28日に「芙蓉漢詩集第18集」の合評会が静岡市で開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2016-241

  牡丹        

植藝三年待望情   植芸三年 待望の情

早晨庭上眩紅英   早晨庭上 紅英眩ゆし

婷婷凄艷芳香郁   婷婷凄艶 芳香郁たり

急雨蒼皇一傘フ   急雨 蒼皇 一傘フぐ

          (下平声「八庚」の押韻)


「婷婷凄艶」: 抜きん出て艶やかで美しい


<感想>

 承句の下三字はやや苦しいですが、まあ読み取れる範囲ですね。
   結句の「蒼皇」は「あわてて落ち着かない」という意味の重韻語ですが、この場面によく合っていると思います。



2016. 8.15                  by 桐山人