作品番号 2015-61
新年
旭日欣欣放瑞光 旭日欣欣として 瑞光を放つ
寒梅興趣亦尋常 寒梅興趣 亦尋常
此迎淑気吉祥夢 此に迎ふ淑気 吉祥の夢
元旦傾杯無恙望 元旦杯を傾け 恙無きを望む
作品番号 2015-62
在他郷迎春
朔北新春梅未開 朔北の新春 梅 未だ開かず
孤燈明滅客愁催 孤燈明滅 客愁を催す
清宵殘月憶郷夢 清宵の残月 憶郷の夢
千里家園一夜回 千里の家園 一夜にして回る
作品番号 2015-63
新年感懐
近親正月互歓諧 近親 正月 互いに歓諧す
安息健康寛悉皆 安息 健康 寛ぐ悉皆
写照戦亡兄歴覧 写照の 戦亡の 兄は歴覧す
児孫平世貫生涯 児孫は 平世の 生涯を貫けと
毎年実家に眷属(3歳から83歳まで17人)が正月に集まって交流する。
みんな変わることなく健康で安全に暮らせていることを喜び祝う。
座敷に掲げられた戦死の兄の写真はじっとみその姿を見下ろしている。
自分のように戦死で若死するのでなく 平和な世の中で生涯を全うしてほしいと言っているようだ。
作品番号 2015-64
初賽
鐘声肅肅送風寒 鐘声 肅肅トシテ 風ノ寒キヲ送リ
銀屑紛紛揺燭盤 銀屑 紛紛トシテ 燭盤ヲ揺ラス
七十三年無事過 七十三年 事無ク過ギ
更希多幸是憂端 更ニ 多幸ヲ希フハ 是 憂端
作品番号 2015-65
新年感懐 其一
今旦迎新雪意来 今旦新を迎えるも雪意来り
茅齋凜洌未春回 茅齋凜洌 未春は回らず
欲呵凍筆生寒栗 凍筆呵しては 寒栗生じ
箋訴東皇田父哀 東皇に箋訴すれば田父哀し
作品番号 2015-66
新年感懐 其二
久甘伏櫪未心灰 久しく伏櫪に甘んじては 未だ心灰ならず
空服塩車伍老駘 空しく塩車に服しては 老駘と伍せん
破屋迎新閑沐浴 破屋新を迎えては 閑に沐浴し
晴蕪添思獨徘徊 晴蕪に思いを添えて 獨り徘徊す
邦家平穏易忘禍 邦家平穏 禍を忘れ易く
殊域紛争難避災 殊域紛争して 災避け難し
海外英知徒黙過 海外の英知 徒らに黙過し
南沙群嶼怒濤哀 南沙群嶼 怒濤哀し
「服塩車」: 塩車之憾 夫驥之齒至矣,服鹽車而上太行。蹄申膝折,尾湛胕潰,漉汁灑地,白汗交流,中阪遷延,負轅不能上。伯樂遭之,下車攀而哭之,解紵衣以冪之。驥於是俛而噴,仰而鳴,聲達於天 「戦国策」
作品番号 2015-67
迎立春
正月試詩筆 正月 詩筆試む
当吟笑福来 吟ずるに当たりて笑福来たる
推敲相対句 推敲す 相対の句
嘆息喫茶杯 嘆息す 喫茶の杯
歩道霜猶凍 歩道 霜猶凍り
街頭燕未回 街頭 燕未だ回らず
寒枝春彩乏 寒枝 春彩乏し
想像詠紅梅 想像し紅梅を詠まん
作品番号 2015-68
乙未新春羊戯
乙羽未能翔 乙羽 まだ翔ぶ能わずも
我言看義詳 我が義を看る言 詳にせん
次君群奈羨 君に次ぐ 群れるを奈んぞ羨まん
老大美羊腸 老大 羊腸を美む
作品番号 2015-69
迎立春 其一
殘生傾放逸 残生 放逸に傾き
何處獨徘徊 何処ぞ 独り徘徊す
不覺家人意 覚えず 家人の意
迎春心更孩 春を迎え心更に孩
作品番号 2015-70
迎立春 其二
招福追儺聲似雷 福を招き儺を追う声 雷の似し
善男善女破寒來 善男善女 寒を破って来る
立春祈願一年事 立春祈願す 一年の事
天地人心莫妄災 天地人心 妄りに災ふ莫れ
作品番号 2015-71
新年感懷 其一
歳朝香夢醒, 歳朝 香夢醒め,
蝸舎旭光來。 蝸舎に旭光來たる。
少啜屠蘇洗, 少しく屠蘇を啜りて洗ふ,
詩毫堪試才。 詩毫の才を試すに堪ふるを。
作品番号 2015-72
新年感懷 其二
庭前家雀鬧咳咳, 庭前に家雀(すずめ)咳咳として鬧(にぎや)かに,
新旭破雲光耀開。 新旭 雲を破れば光耀開く。
洗臉三元與妻子, 臉(かほ)を洗ひ三元に妻子(つま)と,
傾觴一醉試詩才。 觴を傾けて一醉し詩才を試す。
迎春無恙磨香墨, 迎へし春に恙なく香墨を磨き,
執筆含靈潤硯臺。 執(と)りし筆は靈を含んで硯臺(すずり)に潤ふ。
覓句如泉藝林涌, 句を覓(もと)めれば泉の藝林に涌くごとく,
繆斯有意抱琴來。 繆斯(ミューズ)に意ありて琴を抱きて來たる。
作品番号 2015-73
迎立春 其一
延壽迎春好, 壽を延ばし春の好きを迎へれば,
庭前見素梅。 庭前に素梅見ゆ。
旗亭村婦勸, 旗亭に村婦は勸む,
傾酒洗心灰。 酒を傾け心灰を洗ふを。
作品番号 2015-74
迎立春 其二
茅齋白首坐, 茅齋に白首坐り,
院落素梅開。 院落に素梅開く。
詩筆含香墨, 詩筆 香墨を含み,
錦箋迎菲才。 錦箋 菲才を迎ふ。
千篇踏風韻, 千篇 風韻を踏み,
一律頌蓬莱。 一律に蓬莱を頌(たた)ふ。
鳳字張雙翼, 鳳字 雙翼を張り,
飛聲舞春臺。 聲を飛ばして春臺に舞ふ。
作品番号 2015-75
迎立春 其三
天天春意催, 天天 春意は催す,
詩叟試徘徊。 詩叟の徘徊を試むるを。
池水如瑤鏡, 池水は瑤鏡の如く,
陽光映酒杯。 陽光は酒杯に映ず。
旗亭村婦笑, 旗亭に村婦は笑ひ,
院落素梅陪。 院落に素梅は陪す。
有意揮詩筆, 意ありて詩筆を揮ひ,
掃除心裡灰。 掃除す 心裡の灰を。
作品番号 2015-76
迎立春 其四
日照雪融春意催, 日は照り雪融け春意は催(うなが)す,
池頭玉骨作紅梅。 池頭の玉骨 紅梅となるを。
旗亭午酒洗詩叟, 旗亭に午酒は詩叟を洗ひ,
無病呻吟敲又推。 無病呻吟 敲きてまた推す。
作品番号 2015-77
迎立春 其五
詩友隨風携酒來, 詩友 風に隨ひ酒を携へて來たり,
藝林共賞素梅開。 藝林に共に賞(め)づ 素梅の開くを。
愚生忘筆磨香墨, 愚生 筆を忘れて香墨を磨き,
笑語稱揚醉叟才。 笑語して稱揚す 醉叟の才を。
作品番号 2015-78
迎新年 其六
雅客凌寒傾酒杯, 雅客 寒を凌ぐに酒杯を傾け,
旗亭等待繆斯陪。 旗亭に等待(ま)つ 繆斯(ミューズ)の陪するを。
詩人求句尋玄府, 詩人 句を求めて玄府(仙府)を尋ね,
玉骨知春發素梅。 玉骨 春を知りて素梅の發(ひら)くを。
漸促遊魂磨墨水, 漸(ようや)く促す 遊魂の墨水を磨くを,
更揮醉筆掃心灰。 更に揮ふ 醉筆の掃心灰を掃くを。
春風將起堪張翼, 春風 まさに起ちて翼を張るに堪へんとし,
夢想行空不返回。 夢想 空を行きて返回(かへ)らず。
作品番号 2015-79
新年感懷 其一
梅從千古百花魁 梅は千古より 百花の魁(さきがけ)
先自履端凌凍開 先ずは 履端自り 凍(こごえ)を凌いで開く
~域呈祥初詣賑 神域は 祥を呈し 初詣は賑はひ
御籤占託喜慶來 御籤の占託に慶(よろこび) 来るを喜ぶ
初詣の際、お御籤を神域の梅の枝に捧げた折の感懐です。
「履端」: 年の初め、占託=神託、神のお告げ。
作品番号 2015-80
新年感懷 其二
家内安全參拝催 家内安全に 参拝催し
古稀有八賦詩哉 古稀有八に 詩を賦す哉
浮生如夢獨題句 浮生は夢の如くも 独り句を題し
無病息災殘夢回 無病息災なれば 残夢は回る
本年は馬齢七十八に相成る愚懐です。
「浮生」: 儚い人生
「殘夢」: 人生し残したアレコレ、
作品番号 2015-81
迎立春
紅白臘梅香暗靉 紅白臘梅 香は暗に靉(たなび)き
立春驛使百花魁 立春の駅使は 百花の魁
舊時故事江南信 旧時の故事は 江南の信
唐宋詞牌調曲才 唐宋の詞牌は 調曲の才
牆角數枝溶凍搖 牆角の数枝 凍えを溶かして揺らぎ
閑庭素魄冒寒開 閑庭の素魄 寒を冒して開く
西湖佳話擬妻子 西湖の佳話は 妻子に擬へ
語繼逸談乘興哉 語り継ぐ逸談は 興に乗ずる哉
梅は古くから、白・紅・薄紅・一重咲・八重咲等々、多岐多様に亘って人々に愛され、歌と詩に詠まれてきた。
それらの典故を回想し、立春の感懐とした。
「驛使」: 梅のたより
「江南信」: 杜牧の「江南春」など
「詩牌」: 唐宋時代に流行った「填詞(長短の歌詞を填める)」
「素魄」: うめの花
「西湖佳話」: 清代の「短編小説」
「妻子」: 梅妻鶴子(林逋=967〜1028)の愛称
作品番号 2015-82
新年感懷
新年元朝幾度來 新年元朝 幾度か来る
殘生偏託巷間隈 残生偏に託す巷間の隈
世情渾沌向何處 世情渾沌 何処に向ふ
春夏秋冬又一回 春夏秋冬 又一回(めぐ)り
作品番号 2015-83
新年感懷
國破涙花驚鳥哀 国破れて花に涙し鳥に驚き哀しむ
砕身粉骨凱今梅 砕身粉骨 今梅を凱(たのし)まん
史編鏡誡不争闘 史編の鏡誡 争闘せず
天地和同憲法開 天地和同の憲法開かん
戦後七〇年を思い詠いました。
作品番号 2015-84
新年感懷
新歳雲光淑気催 新歳 雲光 淑気催す
門庭開到一枝梅 門庭 開き到る 一枝の梅
迎師試筆吉字 師を迎へ 試筆 吉の字
同好陶然春又回 同好 陶然として 春 又回る
新年を迎え、まだ寒さが身にしみるところ、お師匠を迎えて書き初めをしました。
その雰囲気に同好会の人は皆 陶然となって、このように今年一年をすごそうと思いました。
作品番号 2015-85
迎立春 其二
芳園二月開 芳園 二月開く
早早酒肴催 早早に酒肴催す
戴雪幽隨竹 雪を戴いて 幽かに竹を随はせ
冠花獨望臺 花を冠する 独り台に望む
紅粧明細霧 紅粧 細霧に明るく
玉露踊青苔 玉露 青苔に踊る
凛凛衝天笑 凛凛と天を衝いて笑み
追風不待媒 風を追ひ媒を待たず
作品番号 2015-86
新年感懷
穏寒乙未這香梅 穏寒 乙未 香梅這(むか)ふ
悲喜星霜到傘才 悲喜星霜傘才に到る
郵逓脚夫通過寂 郵逓の脚夫 通過寂し
正朝年計願康哉 正朝 年計 康なるを願ふ哉
作品番号 2015-87
春節
萬家臨節笑顏開 萬家 節に臨みて笑顏開く
各放煙花祝發財 各おの煙花を放ちて 財を発くを祝ふ
簡朴夫妻年夜飯 簡朴なる夫妻 年夜に飯す
相斟清酒願無災 清酒を相斟みて 災無きを願ふ
作品番号 2015-88
新年感懷 二
宗教誰爲暴挙災 宗教 誰か為さん 暴挙の災
苦悲仏國殺人哀 苦悲の仏国殺人哀し
同舟呉越大行進 同舟呉越の大行進
交渉平和期到來 交渉 平和 到来を期す
先日のフランスのイスラムテロ事件、宗教思想の相違は古来からのものとはいえテロ行為は許されません。
これを機会に双方かつ世界は人類の原点、人道的な観点からじっくりお互い反省もして再度考え解決してゆかなければならないでしょう
・・・非常に難しい事ですが・・・
作品番号 2015-89
迎立春
晩風吹凍市城回 晩風 凍を吹いて 市城を回り
又使醉翁求酒杯 又 酔翁をして 酒杯を求めしむ
疫鬼遁逃寒半減 疫鬼 遁逃して 寒半ば減じ
健兒歡喜福應來 健児 歓喜して 福応に来るべし
玲瓏窓外三更月 玲瓏たり 窓外 三更の月
馥郁庭前一朶梅 馥郁たり 庭前 一朶の梅
欲賦新詩呵禿筆 新詩 賦さんと欲して 禿筆に呵せば
迎春感興十分催 春を迎ふるの感興 十分に催す
凍えるような晩どきの 風は街中吹きめぐり
おかげのここの酔っぱらい も一度お酒に手がのびる
オニがすたこら逃げでして 寒さも半ばやわらいで
やんちゃ坊主の歓声に 呼ばれてきっと福が来る
窓のそとにはきらきらと かがやいている夜の月
庭のさきにはふわふわと 香りただよう梅の花
新しく詩をつくろうと 筆にハーっと息ふけば
春を迎える心持ち じゅうぶん湧いて出てきたぞ
作品番号 2015-90
新年感懷
厳寒正旦改爐灰 厳寒の正旦 爐灰を改む
忽看窗前白雪堆 忽ち看る 窓前に白雪堆し
稚子昂揚唱聲響 稚子は昂揚し 唱聲響く
一庭草樹似花開 一庭の草樹 花開くが似し