作品番号 2014-181
般若寺
四辺新緑野人園 四辺 新緑 野人の園
千歳幽庭雅美元 千歳の幽庭 雅美の元
石仏鬼門何以報 石仏 鬼門 何を以て報ゆ
吟花香雨坐南軒 吟花 香雨 南軒に坐す
<解説>
鈴木先生
ご無沙汰しています。先生にはお変わりなくお過ごしの事と思います。
私は腰痛のため、此の一年旅する事も出来ない有り様でした。
漢詩創作ホームページは楽しく、此のぺージで自分なりの勉強をしていました。先日リハビリも兼ね奈良に行ってみました。其の時に立ち寄った般若寺の思いを作詩してみました。
古典の世界の馴染み深い般若寺も今では花の寺(コスモス)として有名ですが、さすが石仏とその想いを詠った俳句、短歌には圧倒されました。
古典の世界「平家物語」「太平記」でなじみの般若寺は、聖武天皇が平城京の鬼門を守るため「大般若経」を基壇に納め塔を建てられたのが般若寺名の起りだそうです。
<感想>
お久しぶりですね。
お身体の調子が悪かったのですか。お便りが無いことを心配していました。
私も入院などで療養していた時、勉強はしっかりできましたが、詩作は精神的にしんどいからか、なかなかできませんでした。
澄朗さんが詩作に復活されたということは、身体のリハビリと心の静養ができたということでしょうね。
また、よろしくお願いします。
今回の詩は、起句の「野人」がひっかかりました。
「野人」と来ると、どうしても「風雅と縁遠い人」をイメージしてしまうのですが、誰のことを指しているのか、般若寺の縁起と何かつながりがあるのでしょうか。
逆に承句の「雅美元」はストレートと言うか、味わいの無い表現で、「千歳幽庭」と雰囲気を出したのがくしゃんと壊れてしまう印象です。
起句承句の下三字を検討されると、後半の詩情が生きてくると思います。
2014. 7. 22 by 桐山人
作品番号 2014-182
偶成
雨過夕映染江天 雨過ぎて夕映 江天を染む
雲去月光青白蓮 雲去って月光 白蓮に青し
辞職帰郷団塊士 職を辞して郷に帰る 団塊の士
初知風雅欲通仙 初めて知る風雅 仙に通じんと欲す
<解説>
東京で企業戦士として頑張ってきた同級生が帰ってきました。
その友の言葉を詩に作ってみました。
結句を「意悠然」も考えたのですが、しっくりこなくて「欲通仙」にしました。
<感想>
起句と承句は対句として考えたのでしょうか。
どちらも時間経過を表す「雨過」「雲去」で始まり、太陽と月の光が照らしているという構成で変化が無いので、同じ様なことを繰り返している印象です。
この前半は自然の美しさを十分に出しておかないと、結句の「初知風雅」が生きてきません。
承句はまだ「青白蓮」がインパクトがありますが、起句はまさに時間経過のみで、働いていない句です。
「雨過」も必要性が感じられませんし、「映」と「染」も言葉が重複しています。
繰り返しますが、前半の景を見て、「ああ、故郷は良いなぁ」と感じるわけですので、その気持ちに釣り合うだけの美しさをどう出すか、がポイントです。
ご友人が「夕焼けの景色も良いし、夜の蓮池もきれいだ」と仰ったのかもしれませんが、その気持ちを膨らませるのが詩ですので、もっとこんなに良い景色もあるよ、と教えてあげるつもりで検討してはいかがでしょう。
結句は、「初知」という段階でいきなり「欲通仙」は望み過ぎです。それなら美しい故郷でずっと暮らしてきた人はとっくに仙人になれています。
しっくり来ないかもしれませんが、「意悠然」の方が良いと私は思います。
2014. 7.22 by 桐山人
作品番号 2014-183
聞田蛙 田蛙を聞く
烏帰農務止 烏帰り 農務止む
蛙鼓到雲辺 蛙鼓 雲辺に到る
閤閤兼誰語 閤閤 誰にと語るや
斜陽染水鮮 斜陽 水を染めて鮮やかなり
<解説>
蛙の合唱は一種頓狂なもので、しみじみ耳を澄ます気分になれません。
しかし時折、遠く救急車の音が混じったりすると、なにやら物悲しくなります。
<感想>
芭蕉の「岩にしみ入る蝉の声」ではありませんが、蛙の鳴き声もあまりに繁き状態ですと、他の音を遮断し、逆に静寂を感じさせてくれるものでもあると私は思っています。
その辺りが、解説に書かれた「遠く救急車の音が混じったりすると、なにやら物悲しく」というお気持ちとつながるのかもしれませんね。
起句の日常性や承句の広がり感、それをまとめる結句の色彩感、短編の風景動画を見ているような感じで、うまく表現できていると思います。
その分、転句の表現が、蛙の鳴き声に対して「うっとうしい」という心の動きが感じられ、他の句から浮いているような印象です。
転句の効果としては面白いわけですが、私としては、蛙の声もこの時期の風物の一つとして認めてあげるような方向の方が、詩としての味わいが出るかと思います。
2014. 7.24 by 桐山人
作品番号 2014-184
夏虫
清流棲隠夏遊虫 清流 棲隠す 夏の遊虫
浮生謳歌数瞬夢 浮生 謳歌す 数瞬の夢
羽化卒然蒸湿夜 羽化 卒然なり 蒸湿の夜
螢群舞命火将窮 螢群舞って 命火まさに窮まらんとす
<解説>
螢の幼虫を購入して庭の池で現在やっと五匹羽化しましたが、その感動より詩に転化する難しさに心身消耗の有様です。
「夏遊虫」を仄起式にしてでも夏虫としたかったのですが、そうすると結句の平仄がうまくいかず、また平起式にもどして、結局妥協の産物になりました。
視点や発想を変えてみるという助言は頭の隅にはあるのですが、いざとなると固まってしまいます。
<感想>
そうですね、仄起式から平起式に戻したりの作業の途中で、平仄がやや混乱したようですね。
起句は平起式の律句になっていますが、そうすると承句は二字目が仄字にならないといけませんね。(反法)
これは単純に「生」の平仄の確認ができなかったのだろうと思います。ただ、この「浮生」はキーワードのようにも思いますので、この語を中二字に置いて、例えば「湛楽浮生」のような形で考えても良いでしょう。
しかし、この句は末字の「夢」が韻違いで、「夢を見る」場合には仄声ですから、この下三字も修正が必要です。
転句の「羽化卒然」はちょっと意外で、承句の「浮生」は当然羽化した後の、一般に言うところの螢の姿の時期も含むのだろうと思っていましたので、何となくもやもやします。
ここに「羽化」を持ってくるならば、承句の「浮生」も検討して、幼虫での様子や姿を描いた方が良いでしょう。
結句は七言の区切れである「二・二・三」が崩れて、「三・四」という変形になっています。「螢群命火」と上四字にすれば解消することですので、もう一頑張りが必要でしたね。
この結句の感慨から見ても、承句の「浮生を謳歌する」のはしっくりきませんので、承句全体を見直す方向ですね。
2014. 7.24 by 桐山人
作品番号 2014-185
六月閑居慢述
六月江村晴雨天 六月ノ江村 晴雨ノ天
一堤柳影淡濃烟 一堤ノ柳影 淡濃ノ煙
蛍光明滅暮鐘径 蛍光明滅ス 暮鐘ノ径
蛙鼓高低漲水田 蛙鼓 高低 漲水ノ田
造化多情淫物象 造化 多情ニシテ 物象ヲ淫ニシ
老生少意送余年 老生 少意ニシテ 余年ヲ送ル
乗閑望見雲間月 閑ニ乗ジ 望見ス 雲間ノ月
把酒陶遨酔御眠 酒ヲ把リ 陶遨ス 酔後ノ眠
<感想>
真瑞庵さんがご指導なさっていらっしゃる詩会に先日参加させていただきました。
当日は昼食会にも加わらせていただきましたが、皆さん和気藹々と、楽しく詩作を楽しんでいらっしゃる様子でした。
漢詩の仲間が沢山いらっしゃることに、とても幸せな気持ちになりました。
真瑞庵さんは今回は全対格で作られたのですが、工夫をされていると思います。
頸聯で大胆な表現を用いて人生の深みを考えさせて、尾聯ですっと日常の世界に戻るという展開は真瑞庵さんのお得意のところですが、前半の景が「柳」「螢」「蛙」とやや地味な分、「造化多情」が大げさすぎる印象が残ります。
春の百花爛漫とか、全山紅葉などという情景ですと、案外すんなりと納得できるのでしょうが。
2014. 7.24 by 桐山人
作品番号 2014-186
桃李満門
重三佳節已春融 重三の佳節 已に春融
桃李門辺灼灼叢 桃李門辺 灼灼と叢がる
結社提壺弄花飲 社を提壺に結んで花を弄して飲す
妖姿競艶衆芳同 妖姿艶を競って衆芳同じ
<解説>
訪提壺吟社主宰大野先生 有感
大野先生爲近畿漢詩連盟会長
「妖姿競艶衆芳同」: 詩を戦わすも詩風の高趣は同じ
<感想>
近畿漢詩連盟が広域県連として結成されたのは三年前くらいでしょうか。
大野先生は全日本漢詩連盟の会合でお顔を拝見したことが一二度ありますが、実力をお持ちの方のようですね。
謝斧さんも連盟のますますの発展を予感されたのでしょうね。
春らしい華やかさの出ている詩だと思います。
2014. 7.24 by 桐山人
作品番号 2014-187
於丹東観挿秧情景
常道江城大米良
雨中初夏始挿秧
湿身不怨泥田裏
但願金秋満谷倉
<解説>
お元気ですか?ニャースです。
相変わらずの中国駐在、仕事は相当なプレッシャーですが、私生活では、京劇、昆曲を観たり、マラソン大会に出たりと、現地ならではの生活を楽しんでおります。
先月、北朝鮮と鴨緑江で国境を分かつ、丹東という町に行き、フルマラソンに参加しました。
ちょうど田植えの真っ最中でした。
丹東は米が美味しいところでも知られています。
<感想>
六月末に私が桂林に行きました時、上海経由でしたので、時間がうまく取れればニャースさんにお会いしたいと思っていましたが、残念ながら単なる乗り継ぎだけで、上海の街には足を踏み入れることもできませんでした。
この時は日本を出発する時に既に二時間半ほど飛行機が遅れてしまい、その日の内に桂林に着けるかどうかという状態でしたので、とてもとても無理でしたが。
お手紙にはフルマラソンを走られた折の写真も添えられていましたが、お元気で活躍なさっていらっしゃるようですね。
後半の表現は実感が籠もっていて、日本の農家の方々も同じ気持ち、どこの国も思いは共通しているのでしょうね。
承句は「挿」が仄字ですので、「挿新秧」とすると良いですね。
2014. 7.25 by 桐山人
私感ですが、転句の「湿身不怨泥田裏」について、
「怨」は妥かでない感じがします。
「厭」ぐらいのほうがよいのではないでしょうか。
2014. 7.30 by 謝斧
作品番号 2014-188
雨中排悶
首夏茅廬緑掩軒 首夏の茅廬 緑 軒を掩ひ
蝸牛不動乱蛙喧 蝸牛動かず 乱蛙喧し
梅霖日暮無人訪 梅霖の日暮 人の訪ふ無し
一酔傾杯楽亦存 一酔杯を傾け 楽しみ亦存す
<解説>
つゆ時の不快さに感けて居ても仕方ない。
<感想>
転句は「人が訪ねてこないからのんびりしている」、とも取れるし、「誰も来なくて無聊だから酒でも飲むか」とも取れて、ただどちらにしてもお酒を飲むことになるのが楽しいところですね。
承句の「蝸牛不動」が発見、観察の妙、下の「乱蛙喧」との対比も効果的で、印象深い句になっていますね。
起句の「首夏」は要らない言葉で、転句の「梅霖」があれば十分でしょう。
2014. 7.25 by 桐山人
作品番号 2014-189
初冬偶成 其一
秋去霜降禽語喧 秋去らんとす 霜降 禽語喧し
水風枯葉屋廬翻 水風 枯葉 屋廬に翻る
庭前有否蠢蚯蚓 庭前有りや否や 蚯蚓の蠢き
野雀吾人一笑温 野雀と吾人と一笑温かなり
<感想>
「秋去霜降」は「秋は去り霜降」と読む。その季節感と「禽語喧」はどうつながるのか。
結句にも「野雀」と鳥があるので、ここは検討が必要。
「水風」は「川風」のことでしょうか。川風が波を起こすのは良いですが、枯葉はどこから来たのでしょう。
また、「屋廬」は川沿い、「庭前」はどこにあるのか疑問です。
「蚯蚓」が蠢くのが何故気になるのでしょうね。
雀と私が何を共通点として笑うのか、詩語が並んでいるだけの印象です。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-190
初冬偶成 其二
夜來雪片舞微風 夜来の雪片 微風に舞ふ
愛日連山楓葉紅 愛日の連山 楓葉紅なり
處處新加白銀燦 処々新たに加ふ 白銀の燦(かがや)き
靈峯富嶽玉玲瓏 霊峯 富岳 玉玲瓏
<感想>
雪かと想えば紅葉で、と思えばまた雪、色彩的にも「白」「赤」「白」とアンバランスです。
富士山の美しさを出したいはずが、「連山楓葉紅」では、十分な美しさが出ていますので、結句が不要の印象さえあります。
構成を検討することが必要でしょう。
承・転・起・結の順でしょうか。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-191
蘭州感懷
歴代榮華餘綺樓 歴代の栄華 綺楼を余し
七層白塔望中收 七層の白塔 望中に収まる
山擁郭夕暉逗 青山 郭を擁して 夕暉逗(とどま)り
危塞連邊歳月遒 危塞 辺に連なりて 歳月遒し
立剣酒泉噴此地 剣を立つれば 酒泉 此の地に噴し
息征戎馬飲何洲 征を息めて戎馬 何れの洲にか飲(みずか)ひし
鵬程千里東瀛客 鵬程千里 東瀛の客
始信黄河悠久流 始めて信ず 黄河の悠久に流るるを
<解説>
日中友好条約締結の年(七十八年)、初めて中国を訪問する。
以来、この国の悠久の歴史に魅せられ毎年各地を訪れたが、余りの広さと奥の深さに、未だ氷山の一角にも辿り着く事が出来ない。
この詩は八十年代頃の作で、蘭州を流れる黄河の畔に立ちて眺めた風景への感懐である。
「邊」: 国境
<感想>
結句の「黄河悠久流」を述べるには、前の部分で作者の立ち位置を表すことが必要でしょう。
また「鵬程千里」は「万里」の方がすっきりします。
頸聯の伝説や回想がとってつけたような印象なので、ここに河を感じさせるものを入れると、黄河への思いが表れるのではないでしょうか。
2014. 7.27 by 桐山人
七律の格律は非常にうるさいようで、私も破格の詩が多く、つねに推敲しています。
以下の疑問が生じました。
1.山擁郭夕暉逗 危塞連邊歳月遒
「夕暉」と「歳月」は対句になりますか。
2.立剣酒泉噴此地
剣を立てることにより酒泉が生じた故事があるんでしょうか。
もし出句が故事があれば落句も故事で応じなければ、「片枯」になります。
対句が故事でなければ問題はないのですが
3.鵬程千里東瀛客
「千里」は300kmのことではないでしょうか。
2014. 7.30 by 謝斧
1.については、仰る通り、対句に取りづらいところですね。
合評会の時には私はあまり気にならずに読んでいたように思います。すみません。
「遒」は動詞として「あつまる」と読み、「積翠遒」と叙景にしておくところでしょうか。
2.については、霍去病の故事でしょうが、「剣を立てる」は「息征」と同じで戦を収束するということで使っていると思います。
霍去病の故事は「酒泉」に関わるわけですが、故事というより古来からの地名という意識が強いのだと思います。
3.については、仰る通りで、「万里」が適当だと私も思いました。
2014. 8. 4 by 桐山人
作品番号 2014-192
再遊湖南省
悠悠羈客水雲艫 悠悠たる羈客 水雲の舮
遊屐印沙蹤已無 遊屐 沙に印して 蹤 已に無し
去歳洞庭蘆雪舞 去歳 洞庭 芦雪舞ふ
如今湘水與鴻倶 如今 湘水 鴻と倶にす
<解説>
再度、中国湖南省を旅し、洞庭湖、君山、汨羅に遊ぶ。「衡陽の雁」「回雁峯」など、雁ゆかりの地、故「鴻爪雪泥」の故事をイメージする。
「與鴻倶」: 秋に来る渡り鳥の鴻と連れ立って、湘江の畔を逍遥する。
<感想>
「再遊」ということで、前回と今回の旅を対比させたり、故事にゆかりの多い地ですので、これは律詩に持っていった方が良いですね。
転句の「蘆雪舞」にしても、「與鴻倶」も、これだけでは「だから何?」という印象は避けられません。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-193
客中聞鵑
陸奥餘春花又稀 陸奥の余春 花 又稀なり
藏王山畔思依依 蔵王山畔 思ひ依依たり
樓窓破夢子規鳥 楼窓 夢を破る子規鳥
何苦千聲勸客歸 何ぞ苦(はなはだ)しく千声客の帰るを勧む
<解説>
「蔵王」: 奥羽山脈の一部、蔵王連峰
「楼窓」: 旅館の窓
「勧客帰」: 子規の啼声が「不如帰」と聞こえると云うに由る
<感想>
良い詩ですね。
結句の「苦」と「千声」はどちらかで良く、「何用千声」あるいは、「何苦裂声催客帰」。ホトトギスなので、「千声」よりも後者の方が良いでしょうか。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-194
三保海岸春(一)
富峰白雪對蒼穹 富峰の白雪 蒼穹に対す
駿海銀波戯恵風 駿海の銀波 恵風に戯る
千里春陽愉漫歩 千里春陽 漫歩を愉しむ
乃公閑適快然窮 乃公 閑適にして 快然の窮み
<解説>
世界遺産になった三保海岸は、冠雪の富士が素晴らしい景観で、我が家から7〜8分なのでいつもの散歩道です。
<感想>
起句の「蒼穹」は「蒼」の色が入っているのが気になるところ。「円穹」「晴空」の方がまとまるかと思います。
結句の「乃公」は自分を表す言葉で、「この儂はな」というニュアンス。軽妙な感じが出て良いですね。
結びの「窮」はギリギリまで行って困ったという感じがするので、「充」「隆」を韻字にして、「隆隆」などで考えてみてはどうでしょうか。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-195
三保海岸春(二)
陽炎駿海舫船浮 陽炎の駿海 舫船浮かぶ
靡草堤塘雛語柔 靡草の堤塘 雛語柔らか
滿地飄然蝴蝶夢 満地飄然として 蝴蝶が夢
人寰平穏樂郊陬 人寰 平穏にして 楽郊の陬(ほとり)
<感想>
承句の「雛語柔」はやや唐突の感もありますが、許容範囲というところでしょうか。
転句で「滿地」と言い、結句で「人寰」とあるのは、範囲が交錯していて、分かりにくい。「此地」としておくと良いでしょう。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-196
老境(一)
退休餘暇破顔時 退休の余暇 破顔の時
妻女賞花吾作詩 妻女花を賞で 吾詩を作る
齷齪星霜懐往事 齷齪の星霜 往事を懐み
顧瞻身世大都嬉 身世を顧瞻すれば 大むね嬉し
<解説>
定年後10年、満足と何か年月の過ぎ去る速さに、むなしい思いが交錯した毎日です。
<感想>
起句の「破顔」は何か嬉しいことがあったのか、という感じです。「樂閑時」「湛然時」「侃然時」など。
転句の「齷齪」は結句との整合が悪いので、ここでは「往事」についての感懐は省き、「幾十」「八十」と事実だけにするのが良いですね。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-197
老境(二)
古稀既去靖双肩 古稀 既に去りて 双肩を靖んじ
喜壽近來彷陌阡 喜寿 近く来たり 陌阡を彷ふ
相集舊儔談退隠 相集ふ旧儔 退隠を談じ
光陰似箭意凄然 光陰箭のごとし 意凄然
<感想>
承句は「喜寿近来」と来て「彷陌阡」では呆けたように感じます。
「彷夢邉」「忘俗縁」「塵事捐」でしょうか。
結句の「凄然」はそれまでの記述を一転させる語でびっくり仰天。
「融然」「飄然」あるいは「陶然」でどうでしょう。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-198
東遊雜詩
函嶺三秋滿錦楓 函嶺 三秋 錦楓に満つ
千峯眺望奪天工 千峯 眺望 天を奪って工
遊人信歩羊腸徑 遊人 歩に信す 羊腸の径
濃淡山腰立晩風 濃淡 山腰 晩風に立つ
<解説>
車で行く陸奥の旅
この度は、昨年、十月末に、晩秋陸奥の旅に行き、秋保、作並、猊鼻渓舟下り、鳴子峡と最上峡舟下りをして、酒田にも宿泊しました。
「白滝」: 白い激流・はやせ
「窈」: 奥ふかい
<感想>
承句「奪天工」は「天工を奪う」、「叶天工」も可。
結句の「立晩風」の主語は「遊人」でしょうが、「信歩」なので頂上なら良いが、「山腰」ではどうでしょうか。
「山腰」を主語として、「鎖晩風」、あるいは「已晩風」と叙景にすると良いですね。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-199
春陰閑居
春色輕煙望藹如 春色 軽煙 望藹如
催花籬落野人居 花を催す籬落 野人の居
遲遲麗日多遊蜨 遅遅たる 麗日 遊蝶多し
鳥語吟風心自舒 鳥語 風に吟ずれば心自ら舒ぶ
<感想>
題名が「閑居」ですので、当然、詩の中に人事を出さねばならないわけですが、ほとんどが叙景で、題名に沿っていません。
「春陰即事」とするところでしょうか。
結句は「吟風」と風を出すよりも「好吟」でどうでしょうか。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-200
辯天島
湖上巡遊華表邊 湖上巡遊すれば 華表の辺
濱名海口大橋連 浜名の海口 大橋連なる
悠然釣艇銀鱗躍 悠然たる釣艇 銀鱗躍る
殘照暎雲光彩鮮 残照 暎雲 紅彩鮮やかなり
<感想>
もう少し季節感がでると良いですね。
「悠然」は「飄揚」「飄然」などで考えてはいかがでしょう。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-201
大學寮杏香
學寮獨視舎窓櫻 学寮独り視る 舎窓の桜
孝子離家萬感生 孝子 家を離れ 万感生ず
宿志青雲何日達 宿志の青雲 何れの日にか達せん
蘭孫勉勵表丹精 蘭孫勉励 丹精を表す
<解説>
孫娘の大学寮生活の始まりに詩を作りました。
<感想>
承句の「万感生」は作者の心情、嬉しさと寂しさが混じり合ったという感じですね。
「孝子」と「蘭孫」が重なりますので、結句の冒頭は「知新」でどうでしょうか。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-202
春陰閑居
春陰犬睡午晴初 春陰 犬は睡る 午晴の初め
草色柳眼舒 草色青青 柳眼舒ぶ
風暖烟光花亂落 風暖かに烟光 花乱れ落つ
柴門無客野人居 柴門 客無く 野人の居
淡青の空にのびたる細き枝
若葉のびたる時となりたる
<感想>
「春陰」は春のどんよりとしたかすんだ景色。それを「午晴初」と起句で裏切るのはきになります。
転句の「烟光」はおぼろに霞んだ景色で、調和していますが、重複感もあります。
承句と転句に変化が乏しい、というより、この二句で一まとまりの叙景というのが難点。
起句 春陰犬睡野人居
転句 午下烟光花已落
結句 柴門無客暖風徐
という流れが良いと思います。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-203
小集席上有作
高樓趁約一堂親 高楼 約を趁ふ 一堂親しむ
契闊交情意氣伸 契闊 交情 意気伸ぶ
啜茗彈琴酬唱樂 茗を啜り琴を彈ず 酬唱の楽しみ
滿筵精彩喜色新 満筵精彩 喜色新たなり
「あっ」という間にすぎゆく三時間
杜甫を語りて李白を吟ず
<感想>
承句の「意気」は「和気」でどうでしょうか。
結句の「喜色」は平仄間違い。「喜声」くらいかと思います。
2014. 7.27 by 桐山人
作品番号 2014-204
五月祭
碧空勇壯競風鳶 碧空 勇壮 風鳶競ふ
相撃剪絲操手鮮 相撃ち 糸剪らんとす 操手鮮か
激練笛聲精氣溢 激練り 笛声 精気溢れる
滿場感嘆醉陶然 満場 感嘆 陶然と酔ふ
<解説>
青空に激しく競い合っている糸切り合戦の凧と、地上で激連をしている人達の勝気あふれる笛の音色に思わず感動した、
<感想>
祭りの熱気が伝わって来る詩になっています。
起句は「碧空」が「勇壮」ではおかしく、ここは「碧空亮亮」くらい。
結句は「酔陶然」が良いのかどうか、「氣昂然」として、転句は下三字を「雄壮響」でどうでしょうか。
2014. 7.28 by 桐山人
作品番号 2014-205
初夏即事
春夢無痕新国N 春夢 痕無く 新緑鮮やかなり
殘紅已盡初夏天 残紅 已に尽き 初夏の天
鯉旗遊泳薫風裡 鯉旗遊泳 薫風の裡
一日清涼意悠然 一日清涼 意悠然たり
<感想>
こちらは平仄の乱れが二箇所。承句は六字目が、結句も六字目が逆になっています。
植物を承句に揃える形で、起句は「春夢無痕初夏天」、承句は「残紅已盡緑新鮮」と調整すれば良いでしょう。
結句は「一日清涼自浩然」でどうでしょうか。
2014. 7.28 by 桐山人
作品番号 2014-206
與異邦之友
近時民物顕東漸 近時民物 顕に東漸す
内陸疎迂外海淫 内陸疎迂となり外海に淫す
北浪魚場舳艫搏 北浪の魚場 舳艫搏ち
南潮境域幟船臨 南潮の境域 幟船臨む
昔聞極毀共工肘 昔聞く極毀れしは 共工の肘
今觀波騒何者琴 今観る波騒ぐは 何者の琴ぞ
天柱傾不君點驗 天柱傾きしや不や 君点験せよ
可温練石女媧心 温ぬべし石を練りし女媧の心
<解説>
読み下しに代えて
人も物も東へ東へと
内陸放って外海目指す
五島の魚場修羅となり
沖縄の海域虎豹の目
昔共工が天を壊したが
今の騒ぎは誰の差金?
国の支え大丈夫?
神話の女媧を見習えよ
海洋大国を目指す隣国、目に余る。この詩はその国の知人に贈ったもの。
百廿年前の甲午「眠れる獅子」だったが、今は「騎虎」ではずんでいるようだ。
<感想>
七句目の「不」は文末に置く字ですので、「乎」と疑問形にするのが良いでしょう。
2014. 7.28 by 桐山人
作品番号 2014-207
現時體舞青少年
幼童自選練成途 幼童自ら選ぶ 練成の途
演習機微深反芻 演習の機微 深く反芻す
亮直天眞曙星眼 亮直たり天真 曙星の眼
美哉鬱勃怒彪車 美しき哉 鬱勃 怒彪の躯
<解説>
ローザンヌバレエコンクール、例年上位に日本人の名が挙がる。
そしてグランプリに輝いた二山治夫。
ソチオリンピックにも、溌剌たる十歳台の目立つこと、頼もしいなー。
科学の世界にも若者の精進期待したいもの。
<感想>
若い人達の鍛えられた技を見るのは、本当に勇気を与えてもらう気がしますね。
「錬成」と起句で出ている分、承句の「演習」や「反芻」が弱く感じます。
流れとしては、ここに結句の描写を持ってきて、結句に常春さんの思いなどが入ると面白いかと思いました。
2014. 7.28 by 桐山人
作品番号 2014-208
茶会
一朶花瓶一軸書 一朶の花瓶 一軸の書
茗爐煖盌靜閑居 茗炉 盌(わん)を煖む 静閑の居
和諧主客問還答 和諧(うちとけ)し主客 問ひ還た答ふ
喫得清風心自舒 清風喫し得て 心自ずから舒(のびや)かなり
どちらもまとまった詩になっていると思います。
<解説>
茶道、日本の水は旨い、お茶は必需ではない、だから様式化したとも言われる。
家内は茶道に熱心、老いてますます力こもる。
そして、時々お相伴に預かる。
<感想>
起句の句中対が生きていて、最後まで一気に読み通せますね。
転句の「問還答」は楽しい会話を表しているのでしょうが、茶室の静謐さを壊すような気がしますね。
何か茶道に関わる言葉を持って来るのも良いでしょうね。
それにしても、ご夫婦仲睦まじいことで、お幸せですね。
2014. 7.28 by 桐山人
作品番号 2014-209
新春口占
落落乾坤瑞気籠 落落たる乾坤 瑞気籠み
滔滔世路有窮通 滔滔たる世路 窮通有り
新詩欲賦生涯計 新詩 賦を欲す 生涯の計
麗日陶然問碧翁 麗日陶然 碧翁に問ふ
<解説>
正月の休日に机に向かって作詩してみました。
<感想>
気持ちよく作っておられるのがわかりますが、結句の「問碧翁」は天に何を尋ねたのか、詩からは分からないのが難点です。
2014. 7.28 by 桐山人
作品番号 2014-210
早春即興
淡月模糊野老家 淡月模糊として 野老の家
吟箋磨墨薄寒加 吟箋墨を磨し 薄寒加ふ
蕭疎墻角横斜影 蕭疎なる墻角 横斜の影
一笑吹香冷艶花 一笑香を吹く 冷艶の花
<解説>
近所の垣根の上にきれいな白梅が咲いておりました。
<感想>
起句の「野老」は謙遜し過ぎで、承句の「吟箋」と不似合いで、そのため、作者の居場所が混乱しています。できれば「書窓」の語が欲しいです。
後半は定番の語が並びますが、これはこれで良いとすると、作者の行為や気持ちを前半でまとめておく必要があるでしょう。
「淡月書窓閑適家」でしょうか?
2014. 7.28 by 桐山人