2012年の新年漢詩 第1作は 兼山 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-1

  壬辰新年偶感        

日月無涯生有涯   日月 涯無く 生 涯有り

人間傲慢未知悲   人間 傲慢 未だ悲を知らず

七十九齢身好在   七十九齢 身 好在なり

天恩感謝賦新詩   天恩に感謝し 新詩を賦す

          (上平声「四支」の押韻)



   有難や無病息災老いの春























 2012年の新年漢詩 第2作は 兼山 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-2

  壬辰元朝有感        

百年一日轉凄涼   百年一日 轉た凄涼

七十九齢雙鬢霜   七十九齢 雙鬢の霜

懶出無聊無客訪   出るに懶く 無聊 客の訪ふ無し

題詩長嘯獨傾觴   詩を題し 長嘯 獨り觴を傾く

          (下平声「七陽」の押韻)



   目出度さや七十九齢寝正月
























 2012年の新年漢詩 第3作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-3

  迎春所懷        

龍生九子才多樣,   龍は九子を生んで才は多樣,

酒美三元人少間。   酒は三元に美(うま)く人に少間あり。

年計一新將却老,   年計一新 まさに老いを却(しりぞ)けんと,

開門無碍見青山。   門を開くに碍(さまた)ぐるなし 青山見ゆ。

          (中華新韵「八寒平声」の押韻)























 2012年の新年漢詩 第4作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-4

  少年游・迎春所懷        

龍生九子,     龍は九子を生み,

人裁百賦,     人は百賦を裁し,

詩興有千門。   詩興に千門あり。

四海迎陽,     四海に陽を迎え,

三元飲酒,     三元に酒を飲まば,

何不擅游魂。   何んぞ擅(ほしいまま)にせざらんや游魂を。

  ○        

遵平仄、自尋煩惱,  平仄に遵(したが)い、自ら尋ぬる煩惱,

押韵苦吟春。   押韵 苦吟の春。

醉夢花開,      醉夢に花は開き,

繆斯微笑,      繆斯(ミューズ)微笑し,

賞讚句鮮新。   賞讚せん 句 鮮新なりと。

          (中華新韵「九文平声」の押韻)

























 2012年の新年漢詩 第5作は 緑風 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-5

  謹賀新年        

春回七九独懐思   春回りて七九 独り 懐思す

永逝朋徒数殖悲   永逝の朋徒 数殖え 悲し

余命幾年焦燥感   余命 幾年ぞ 焦燥の感あり

晴耕雨読熟成期   晴耕雨読  熟成のとき

          (上平声「四支」の押韻)























 2012年の新年漢詩 第6作は 玄齋 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-6

  歳晩書懷        

年過養命與修身、   年は養命と修身とに過ぎ、

漸得良醫在憶人。   漸く得たり 良医は人を憶うに在りと。

閑話暫忘生計拙、   閑話すれば暫く生計の拙なるを忘れ、

題詩戀慕已吟春。   詩に恋慕を題すれば已に春を吟ず。

          (上平声「十一真」の押韻)







 この一年は健康に気をつけて身体を養うことと、自分の行いを正しくすることで過ぎていきました。

 しだいに分かってきたことは、すぐれた医者というのは、人を想ってあれこれと考えることであるということです。

 その人と世間話をすれば、しばらくの間、自分は生きるのが上手でないことを忘れることができて、恋い慕う気持ちを詩にすると、もう春のことを詠んでいるのです。

























 2012年の新年漢詩 第7作は 玄齋 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-7

  龕前祭詩        

歳暮龕頭祭小詩、   歳暮 龕頭に小詩を祭れば、

半吟災禍半相思。   半ばは災禍を吟じ 半ばは相思。

懷人憂國當仁愛、   人を懐ひ国を憂ふるは当に仁愛なるべし、

切願前途言志時。   切に前途を願ひて志を言ふの時。

          (上平声「四支」の押韻)



※龕前(がんぜん): 「厨子(ずし)」、つまり神仏の像を安置するための、
   お堂の形をした二枚の開きとびらの箱の前、ということです。
   「龕頭(がんとう)」も同様の意味です。

※祭詩(さいし): これは「推敲(すいこう)」の故事で有名な
   唐の賈島(かとう)の故事で、常に毎年の大晦日の夜に、
   自分のその年作った詩を選び取って、酒と干し肉で祀(まつ)って
   自分自身の詩作を励ますことです。


年の暮れに神仏を安置する箱の厨子(ずし)の前に、私が作った短い漢詩を祭るときに、
その詩の半分は今年の思いがけない災害を吟じて、もう半分は人(僕のお相手の方)を想い慕う気持ちを吟じていました。
人を想い慕い、国を憂える気持ちというのは、きっと人をいつくしむ思いやりの気持ち、つまり「仁愛」ではないでしょうか。
今は切実に将来のことを願いながら、自分の想いを漢詩にしようとしている時なのです。

























 2012年の新年漢詩 第8作は 杜正 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-8

  題平成壬辰年勅題「岸」        

陸奥岸頭初日妍   陸奥の岸頭 初日 妍なり

千門待望入新年   千門 待望 新年に入る

堆堆瓦礫前途遠   堆堆たる瓦礫 前途 遠し

四海扶携万古伝   四海の扶携 万古に伝ふ

          (下平声「一先」の押韻)



陸奥の岸辺に朝日が美しい。
あらゆる家が待ち望んでいた新年を迎えた。
大惨事のあとの積み重なった瓦礫を見ると復興の前途は遠いけれども、
世界中の助け合いがあったことは永久に伝えていきたいものだ。


























 2012年の新年漢詩 第9作は 謝斧 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-9

  應制詩 岸        

懷舊渡頭移歩遅   舊を懐ひ 渡頭歩を移すこと遅く

涘涯沙渚使人悲   涘涯 沙渚 人をして悲しませしむ

橋辺魯叟臨流處   橋辺の魯叟 流を臨みし處 魯叟 孔子

岸上詩人折柳時   岸上の詩人 柳を折りし時

携手傭舟釣魚喜   手を携へて 舟を傭って魚を釣るを喜び

竝肩放課学泅嬉   肩を竝べ 放課泅ぎを学んで嬉しむ

今年暴雨防洪水   今年の暴雨に 洪水を防ぎ

能整川途却灌滋   能く川途を整へて 却って灌滋す

          (上平声「四支」の押韻)





呂師謂曰 江戸期詩人 矜恃我力量 便強作七言律詩詠物體 師常譏其愚。

 今年御題「岸」是詠物之題也 詩形自為詠物體。
 雖非本意 賦七言律詩詠物體。
 雖名詠物體 実近「岸辺即目」
 可恥。

























 2012年の新年漢詩 第10作は Y.T さんからの作品です。
 

作品番号 2012-10

  春日        

梅花纔発暗香馨   梅花 纔かに発(ひ)らいて 暗香 馨ばし

一鳥飛来鳴戸庭   一鳥 飛来たりて 戸庭に鳴く

春日遅遅池閣静   春日 遅遅として 池閣 静か

出門望野草青青   門を出でて 野を望めば 草 青青たり

          (下平声「九青」の押韻)

























 2012年の新年漢詩 第11作は 芳原 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-11

  祝万寿        

元日東山霽   元日 東山霽れて

晨星淑気周   晨星 淑気周く

長閑鐘梵響   長閑たり 鐘梵の響き

万寿尚清游   万寿 尚 清游

          (下平声「十一尤」の押韻)



元日の夜明けだ 東山三十六峰に赤みが差してきた
明るくなる空に星が消えてゆく 清々しい気が充ちて心身が粛然と新たまる
近くのお寺の鐘がこだまして 周囲にのどかな穏やかな気配が広がる
ずいぶん長生きさせてもらった ありがたいことだ この年でまだ先があろうとは
























 2012年の新年漢詩 第12作は ニャース さんからの作品です。
 

作品番号 2012-12

  元旦        

已高朝日惰眠貪   

拝廟吹風冷気含   

何求富貴知天命   

平安但願在江南   

          (下平声「十三覃」の押韻)




元旦のお日様がすでに高く上っているが、惰眠をきめこんでいる。
寺に参れば、吹く風はまだ寒さを含んでいる。
五十の自分がいまさら、富貴を求めても仕方があるまい。
平安を江南のここ上海で祈るのみである。



























 2012年の新年漢詩 第13作は 常春 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-13

  壬辰口号        

既越平均壽命關   既に平均寿命の関を超え

衰耗身體又情頑   身体衰耗し 又 情頑

微心尚有世塵事   微心尚有り 世塵の事

何奈地球温暖環   何奈ぞ 地球温暖の環

          (上平声「十五刪」の押韻)


























 2012年の新年漢詩 第14作は 澄朗 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-14

  新年偶感(一)        

壬申新正白頭翁   壬申の新正 白頭翁

一攫千金一夢中   一攫千金 一夢の中

禍乱喧傳争不尽   禍乱喧伝 争ひ尽きず

政権禅譲委天功   政権の禅譲 天功に委ねる。

          (上平声「一東」の押韻)


























 2012年の新年漢詩 第15作は 澄朗 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-15

  新年偶感(二)        

大阪維新放伐年   大阪維新 放伐の年

正伊四海掌中旋   正に伊れ 四海掌中を旋る

無天地凍風飌刻   天無く地凍る 風飌の刻

今世安危須口傳   今世の安危須らく口伝すべし。

          (下平声「一先」の押韻)



「四海」: 天下の民
「風飌」: つむじ風
「安危」: 安而不忘危
























 2012年の新年漢詩 第16作は 展陽 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-16

  元旦        

賀客無縁八十翁   賀客に無縁の八十翁

盆梅伴我待春風   盆栽の梅が私と伴に春風を待つ

全家小宴団欒楽   一家で小宴をして 団欒楽しみ

萬戸迎新歳運隆   萬戸は新年を迎え 歳運隆める

          (上平声「一東」の押韻)



























 2012年の新年漢詩 第17作は 劉建 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-17

  歳次壬辰        

百卉萌芽斗建寅,   百卉 萌芽し 斗建寅

蟄虫開戸迎初春。   蟄虫 戸を開き 初春を迎ふ

塡留角有軍興兆,   塡 角に留まり 軍興の兆し有り

乱且起來若拱辰。   乱 且に起き来たらんとして 拱辰の若し

          (上平声「十一真」の押韻)



「塡留角」: 現在、塡星(土星)が角宿(二十八宿の一つ)に留まっている。『開元占経』の填星占二より。
「若拱辰」: 北極星を回る全天の星、転じてあらゆる場所とした。


 皆様、明けまして、おめでとうございます。
 新年早々、きな臭い話題で恐縮です。年末から世界の情勢に注視し続けていました。

 本年もよろしく。























 2012年の新年漢詩 第18作は 道佳 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-18

  希望        

命名翔結視清眸   命名す しょうゆい みつめ清眸せいぼう

安穏笑顔望静修   笑顔に安穏 静修を望む

越過凄風如勁節   凄風を越過す 勁節の如く

到来天上子希求   到来せよ 天上へ 子の希求

          (下平声「十一尤」の押韻)



 新しい年を迎えました。

 昨年は大変な年でしたが、そんな中に被災地での新たな生命も含め百万人余の赤ちゃんが誕生しました。
 命名では、男子は大翔(ひろと)、女子は結愛(ゆい)が一位でした。わが子へ思いを込めた清らかな眼差しが注がれ、その笑顔に心安らぎ、立派な人になってほしいとの望みにあふれています。

 強い節を持ち凄ざましい寒風を乗り越える竹のようにのび、天まで届け、我が子の願いがと・・

「静修」: 身や心を澄み渡り、学問、徳行をおさめる
「勁節」: 強い節 竹のように節があって強く積雪などに折れないかたい節操にも掛けている























 2012年の新年漢詩 第19作は和歌山県の 十三山 さん、七十代の男性の方からの初めての投稿作品です。
 お手紙には
 二年程前から全日本漢詩連盟に入会させてもらいましたが、このホームページのあることを知りませんでした。
 今回知人から教えてもらい、初めて参加させてもらいました。
 勉強させてもらえる有り難いHPのあることを大層嬉しく思っています。
 と書いてくださいました。

作品番号 2012-19

  一陽来復        

狂涛廃址水仙開   狂涛の廃址 水仙開き

震怖児曹笑貌回   震怖の児曹 笑貌回る

雪重竹揉竣暖日   雪の重きに 竹は揉めども 暖日に竣たり

一陽来復願乾杯   一陽来復 願ひて杯を乾す

          (上平声「十灰」の押韻)



 大津波の後の荒地にも清楚なスイセンの花が咲いた。
 大地震大津波で怖い目に遭った子ども達にも笑顔が戻ってきた
 竹は雪の重さにたわんでも 暖い日が来れば元通りすっくと高く上に伸びる
 冬の後には春が来ることを祈りつつ杯を乾すのである
























 2012年の新年漢詩 第20作は 博生 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-20

  元旦口号        

壬辰歳旦祷年中   壬辰の歳旦 祈年の中

世事多難路亦窮   世事多難 路亦窮す

老骨雖貧猶壮健   老骨 貧なりと雖も猶壮健

心機一転仰晴穹   心機一転 晴穹を仰ぐ

          (上平声「一東」の押韻)

























 2012年の新年漢詩 第21作は 宏迂 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-21

  新年漢詩        

曙光燦燦歳華新   曙光燦燦として 歳華新たなり

遠寺鐘声払俗塵   遠寺の鐘声 俗塵を払ふ

不況加之大災害   不況 加之(しかのみならず)大災害

捷成復旧祷天神   捷成の復旧 天神に祷る

          (上平声「十一真」の押韻)


























 2012年の新年漢詩 第22作は 真瑞庵 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-22

  新年寓筆        

鐘声寂寂渡霜天   鐘声寂寂トシテ 霜天ヲ渡ル

未就孤窓除夜眠   未ダ就カズ 孤窓 除夜ノ眠

燈下閉瞳懐去事   燈下 瞳ヲ閉ヂ 去事ヲ懐シミ

爐頭屈指数余年   爐頭 指ヲ屈シテ 余年ヲ数フ

          (下平声「一先」の押韻)






謝斧さんから感想をいただきました。

 好詩是詩仙手。
 先生、雖悲老大却愉余生乎。
 如此好詩、閑吟便使心身安穏。


2012. 1.26              by 謝斧























 2012年の新年漢詩 第23作は 点水 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-23

  思東北大地震        

迎得新年八十翁   新年を迎へ得たり 八十の翁

震災畫像更胸恫   震災の画像 更に胸恫む

復興難事長期役   復興は難事 長期の役

不忘支援刻意衷   支援を忘れずと意衷に刻む

          (上平声「一東」の押韻)

























 2012年の新年漢詩 第24作は 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-24

  題平成壬辰歳年始、吟翫新春方聨詩  
      平成壬辰歳の年始に題し、新春方聨詩を吟翫す   

占壬辰歳吉生檐   壬辰歳を 占へば 吉 檐に生じ

言問爲君佳氣添   言(こと)問ひは 君が為に 佳気は添ふ

忝賀題詩應有意   賀を忝なうし 詩を題すれば応に意有るべく

心機一轉百華沾   心機一転して 百華沾はん

          (下平声「十四塩」の押韻)




吟翫=作吟、吟詠して楽しむこと、 *言問=問い尋ねる、 *沾=潤す、見る、 「吟翫」: 作吟 吟詠して楽しむ
「方聯」: 四角形に聯なることで、起承転結の各句を四角形の各辺に沿って配置する。
「占」: 見る、問う
「檐」: のき、ひさし
「言問」: 問い尋ねる、言い交わす
「爲」: 両韻 爲は● 為す 作るは○
「沾」: 潤す、見る、伺う



 昨年は、一年の世相を表す漢字が「絆」に決りました。
何か「絆」に因んだ工夫は無いかと愚考したのが拙吟です。

 各句末尾漢字の偏旁冠脚の一部が、次の句の冒頭の漢字になるようにして、各句に「絆/繋がり」を持たして、人と人の「絆」の大切さを再認識した次第です。
 即ち、
   一句目末尾の「檐]の中の「言」を、二句目の頭に、
   二句目末尾の「添」の旁の「忝」を、三句目の頭に、
   三句目末尾の「意」の脚の「心」を、四句目の頭に、
   四句目末尾の「沾」の旁の「占」を、一句目の頭に、

そして、起承転結の聯がりが判り易い様に「方聯(四角)」形にしました。ご笑覧頂ければ幸甚です。























 2012年の新年漢詩 第25作は 茜峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-25

  新年書懐(山行)        

樹氷新雪履蹤光   樹氷 新雪 履蹤(りしょう)は光る

行歩今年何企望   行歩 今年 何れを 企望せん

災禍励精興復態   災禍に 励精する 興復の態(さま)

我能鍛錬願堅強   我 能く 鍛錬し 堅強を願はん

          (下平声「七陽」の押韻)



 美しい樹氷を見上げ新雪を踏み近郊の山に登る。さて今年はどの山に登りどんな山行をしようか。

 東北ではまだまだ厳しい状態は残るというものの、励み努力をされ、少しずつ復興されてきつつあるようだ。
 私も老いに負けないように鍛錬に励み、健康で丈夫な体を保てることを願う。


























 2012年の新年漢詩 第26作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-26

  八聲甘州・祝龍生九子        

祝龍生九子擅才華,   祝はん 龍が生む九子 才華をほしいままにし,

張翼各飛翔。         翼を張っておのおの飛翔するを。

有樂人琴韵,         樂人に琴韵,

畫家綵筆,           畫家に綵筆,

墨客辭章。           墨客に辭章あり。

回憶愚生徑路,       愚生の徑路を回憶すれば,

祿仕四十年,         祿のために仕えて四十年,

鯨飲千鍾酒,         鯨のごとく飲んで千鍾の酒,

滌洗塵腸。           滌洗せり 塵腸を。

  ○   

再坐元朝無恙,       再び元朝に坐して恙なく,

喜山珍海味,         喜ぶは山珍海味,

玉液瓊漿。           玉液瓊漿。

暫開心緩帶,         暫く心を開いて帶を緩めれば,

金盞似霞觴。         金盞 霞觴に似る。

伴荊妻、游魂千里,   荊妻を伴ひ、魂を遊ばすこと千里,

問梅村、             梅村を問(おとず)れて、

醉夢入仙郷。         醉夢は仙郷に入る。

風光好、偶吟俳句,   風光好し、俳句を偶吟し,

收納詩嚢。           詩嚢に收納す。

          (中華新韵「十唐平声」の押韻)



























 2012年の新年漢詩 第27作は大阪府富田林市の 藤城 英山 さん、六十代の男性の方からの作品です。
 

作品番号 2012-27

  憶新年        

青龍旭日極東天   青龍 旭日 極東の天

摂酒家家祈祝年   酒を摂り 家家 祝年祈る

地震颱風悼災禍   地震 颱風 災禍を悼み

復興惟願是優先   復興 惟だ願ふ 是れ優先

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 世界は極東の日本の空からの初日の出とともに青竜が昇り、新年を迎え、家の皆がお酒で祝い、またこの一年の無事を祈ります。
 去年は大地震、台風、豪雨の大災害の哀しみを日本始め、諸国にもたらしました。
 今年は第一番にこの災害の復旧、復興を昇り龍に祈願するものです。



























 2012年の新年漢詩 第28作は 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-28

  壬辰新春述懐        

接天海嘯揺邦基   天に接する海嘯 邦基を揺るがし

覆地毒雲催怨咨   地を覆ふ毒雲 怨咨を催す

昨夜欣然送凶歳   昨夜 欣然として 凶歳を送り

今朝珍重戯孫時   今朝 珍重す 孫と戯る時

          (上平声「四支」の押韻)






謝斧さんから感想をいただきました。

久しぶりに先生の詩を拝見しました。
短詩型の前對は確かに古人の用例もありますが、言って尽きせざるの感があり、避けた方がよいと日頃は思っています。
しかし、先生の今回の詩の前對はスケールが大きく、杜甫の詩を想起されます。
前對詩では成功でしょうか。

措辞も申し分ありません。
単なる個人の好みですが、「天に接する」「地を覆ふ」の部分は、「天を摩する」「地を圧する」も悪くないとおもいます。

  摩天海嘯揺邦基   圧地毒雲催怨咨 という形はいかがでしょう。

謝侫批

2012. 1.26               by 謝斧























 2012年の新年漢詩 第29作は 兼山 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-29

  新年會即事        

相逢高唱賀正吟   相逢ふて高唱す 賀正の吟

原發戲論催興深   原發戲論 興を催すこと深し

酣適初聽故人訃   酣適 初めて聽く 故人の訃

交情無奈痛吾心   交情 奈ともする無し 吾が心を痛ましむ

          (下平声「十二侵」の押韻)





<解説>

 東日本大震災では多くの人命が失われた。新年会での話題は「福島原発」だったが、
 ほろ酔い加減の原発談義は、所詮、素人の戯れ言に過ぎないであろう。
 年末に喪中状を貰った以後、年賀状と共に舞い込んだ訃報もあった。


  合はせ見る二つの訃報年賀状

























 2012年の新年漢詩 第30作は 柳田 周 さんからの作品です。
 

作品番号 2012-30

 六遇辰春自励         

六辰便歴歳従心   六度目の辰年 便ち七十歳は過ぎた

浩気敢時踰矩怎   広い気持ちで敢えて時に矩を踰えてはどうか

不事老成垂範語   老成垂範の語など知ったことではない

余年勿算合生今   余生を数えたりするな まさに今を生きよう

          (上平声「十一真」の押韻)